光速の第一歩 その19
019
「浅川さんはヒーローになってどうしたいんですか?」
僕は問いかける。
「さあな。ただ昔のように注目されていたいだけなのかもしれないし、あるいは自分のことを特別な人間だと、真っ当な人間だと信じたいだけかもしれない。正直、俺も実はよく分かっていない」
浅川さんは自嘲気味に答える。
「何となく、気持ちはわからなくもないです」
「おいおい、ヒーローがそんなこと言っていいのか?」
「いいんですよ。何度も言っているように、僕は――ヒーローなんかじゃないですから。それに、僕もそう思っていたときがありましたから。だから、やっぱり浅川さんの気持ちもわかります」
かつて『あいつ』に出会う前の僕も、何者かになりたいけれど、何者にもなれない普通の『人間』だった。でも、そんな僕が、見ず知らずの他人を守るために戦い続けているのだから考えてみれば不思議な話だ。
「……わかった風な口を聞くなよ、ヒーロー。お前なんか最初から何も持ってなかっただろうが。最初から持っていないならいいんだよ! 持っていたから、あの輝いていた頃が忘れられないから苦しいんだ!」
『だから、最初から何も持っていないお前には絶対に俺の気持ちは分からない』と、浅川さんは小さな声でつぶやいた。
「……浅川さん」
「さあ、そろそろ始めようぜ。あまりのんびり話していると、また周りに人が増えてしまう。そうなったら、お前も困るだろ?」
「ええ、分かりました」
そう言って僕は少しだけ拳を上げる。
対する浅川さんは動かない。しかし、
――ガン!
と、そんな鈍い音とともに僕は後頭部を殴られてふっ飛ばされる。
「かはっ!?」
ふっ飛ばされた僕は地面に叩きつけられた衝撃で一瞬呼吸ができなくなる。それにしても、
――まったく見えなかった。
正直、浅川さんは前回戦った時でもすでに僕のスピードを上回っていたけれど、今はそれ以上だった。そこには圧倒的な速度の差があって、それはまるで音速と光速くらいの歴然とした差がそこにはあった。
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