光速の第一歩 その8

008


 目が覚めたのは研究所からは遠く離れた海岸だった。


 遠くの空が赤くなっているところをみると、なるほどあそこが先ほどまで俺がいた研究所で、まだ火災は収まっていないのだろうということが何となくわかった。


 しかし一方で、なぜ自分がここにいるのかはまったくもって分からなかった。


 ポケットに入っていたスマートフォンからGo〇gleマップを開くとやはりというべきか、研究所からはかなり離れたところまで来ていた。


「……どうやって俺はここまできたんだ?」


 時間をみると、どうやら気を失っていたのはいいところ数分のようで、たとえ車で移動したとしてもここまでは来られないだろう。――それこそあのヒーローのように『光速』で移動できないことには絶対にたどり着けない距離だった。


「あ……」


 思い出した。あのとき電流を受けたあとのことを。そして――俺が命と危機と引き換えに手に入れた『能力』のことを。


「俺は……もしかしてヒーローになれるのか?」


 頭の中にあるのは昨日のヒーローの記憶。そして――


「あのヒーローを倒して、俺が、俺がもう一度ヒーローになるんだ!」


 そう叫んだかと思うと、一瞬で俺の姿はこの海岸から消えた。


 正確には消えたのではなく走っただけなのだが。

 それこそ、現役時代にひたすら追い求めていたような『目にも止まらない』速さで、文字通り『光速』で走り抜けた。

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