光速の第一歩 その6
006
「おい浅川、何度も言わせんな! さっさと倉庫から機材持ってこい!」
ヒーローに助けられた次の日もいつもと変わりなく俺は悩んでいた。
先月からこの生物化学研究所で雑用として働いているが、なかなかどうして社会人とは難しい。
少なくとも俺のようにこれまでスポーツしかしてこなかったような社会不適合者にはかなりのハードモードであることは確かだった。
何より、数年前まではスター選手として扱われていたのに今ではこんな風に毎日雑用として社会的にみても下から数えた方が早いような立場にいることが何よりも苦痛だった。
そんなことを思いながらも、それでも生活するためには働かねばならず、今日も今日とて俺は雑務をこなしていた。
どうやら今日は大規模な実験が行われているらしく、その準備のために研究所内はあわただしく人が行き来していた。
正直、俺もよくわかっていないのだが、研究内容は『人体の筋力強化』に関するものらしい。
俺たちアスリートがいくら頑張っても人工的に産み出されたロボットや生物に勝てなくなる日もきっとそう遠くはないのだろうと、そんなことを少しアンニュイな気持ちになりながら考えていた。すると、
――ドン!
と、大きな音が鳴ったかと思うと、次の瞬間には非常事態を告げる警報が鳴り出していた。どうやら実験が失敗した際に火災が発生したようで、研究所内は逃げ惑う人々でごった返している。
「お、おい! まだ俺がいる! おい、嘘だろ? 待ってくれって!」
そんな人の波の中で、逃げ遅れた俺は防災用のシャッターが降りた研究所内に閉じ込められてしまった。
「マジかよ……」
一難去ってまた一難とはよく言ったものだけれど、それでもまさか自分が二日連続でこんな事件に巻き込まれて、あまつさえ死にかけるなんてたまったものではない。
俺が閉じ込められた部屋は実験室だったようで、研究に使われていたのであろう大きな機械があり、その機械からはバチバチと火花と稲妻のような電流が飛び散っていた。
――バチ!
そして、次の瞬間にはそんな漫画みたいな音を鳴らして機械から飛び散った電流が俺の体に直撃した。
――ああ、今度こそ間違いなく死んだな
と、またどこか他人事のようにそんなことを思いながら俺は意識を失った。
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