光速の第一歩 その4

004


『グォォォォォ!』


 謎の生命体が俺の目の前で大きな声をあげたところでハッと我に返った。


 なるほど、人は死ぬ間際には過去の記憶が走馬灯のようにかけていくというのは本当のことらしい。


 と、そんな風に感慨にふけっていると、目の前のモンスターが俺に向けて拳を繰り出してきた。


 俺みたいな何もない人間が死を覚悟するには十分すぎるほどの威力と、恐怖と、そして倫理観も何もない無感情なその拳がまっすぐ俺に向かって風を切って飛んでくる。


 俺はとっさに目をつぶって衝撃に備えたが、――いつまで待っても拳がこない。


 恐る恐る目を開けると、目の前には真っ赤なマントを閃かせた、まるで正義のヒーローのような、あるいは人々が抱く希望そのものがそこにはあった。


「大丈夫ですか?」


 そのヒーローは、後ろで腰を抜かしている俺を横目に、そんなことを聞きながらモンスターの拳を受け止めていた。


 ――これだ、俺も、こんな希望に満ちたヒーローみたいな存在になりたかったんだ。


 俺は恐怖から一歩も動けない中で、ぼんやりとそんなことを思った。

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