光速の第一歩 その2

002


「うそ……だろ?」


 ――燃えていた。


 辺り一帯が炎に包まれているのを見て、俺は死を覚悟した。


 思えば、俺、浅川万里アサカワバンリの人生は本当につまらないものだった。


 まあそんなことはこんな死に際にならなくても常日頃から分かりきっていたことだったのだけれど、それでもこんな場面ですら――死を覚悟した瞬間にすら自分の人生を尊いと感じることができなかったことは少なからずショックだった。


 ――ショックだったし、何より後悔した。


 陸上に人生をかけてきたことを。夢を追い続けたことを、俺は果てしなく後悔した。


 失敗した。人生を棒に振った。そんな思いばかりが溢れてきた。


 目の前にはかろうじて人の形は保っているものの、おおよそ人間とは呼べないであろう未知の生命体が暴れまわっている。


 こんな醜くておぞましいものに俺の命を奪われるのかと思うととてつもなくがっかりだったけれど、その一方でまあ俺の人生などこんなものかという気もしていた。


 そんなことを考えていると、遠くで暴れていたよくわからない生命体と目が合ってしまった。


『あ、終わった』と、どこか他人事のようにそんなことを思った。


 こんなときに助けに来てくれるヒーローなんていない。あるのはこれまでの人生で見てきたようなクソみたいな現実だけだ。


 そんなことは誰に言われるまでもなく、俺だってよく知っていることだ。

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