光速の第一歩 その1
001
突然で申し訳ないのだけれど、皆さんは自分の恋人にアブノーマルなエロ本を見つかったという経験はあるだろうか?
漫画やライトノベルの世界ではベッドの下に隠してあったエロ本が恋人に見つかるというシーンはお馴染みな展開ではあるものの、こと現実でこのような場面に出くわすことは非常に希で、実際に経験することなど皆無と言っても過言でないのではないと思う。
――しかし、残念なことに僕こと
というよりは現在進行形で恋人に見られている――僕がスマホ内に保存したエロ動画を。
「おかしいだろ! こういうときって普通は『ベッドの下に隠していたエロ本が見つかった』とかがお約束だろ? 何で僕のスマホにあったはずのエロ動画が村雨のスマホに全部移されているんだよ!?」
「久間倉、うるさいわよ? ちょっと黙ってくれないかしら? 私は今忙しいのよ」
そして、そんな僕の心の底から出た叫びもどこ吹く風と言わんばかりに自分のスマホを真剣に見つめているのが僕の残念な恋人、
「忙しいって……」
僕たちが日常的に過ごしている放課後の生物準備室には絶対に高等学校の一室では聞こえてくることのないような生々しい吐息と時々かん高い女性のあえぎ声が響いておそろしく非日常的な雰囲気を醸し出していた。
「そうなのね。久間倉君はロリコン趣味以外にもこんなアブノーマルな好みを持っていたのね。なるほどなかなか私に心を開いてくれないわけだわ」
「えーっと、村雨さん? 動画に見入っているところ悪いんだけどさ、何で村雨さんが僕のスマホ内にあったはずの動画を見ているのか説明してもらっていいかな?」
僕は自分の恋人に対して当然の主張をする。今さらではあるものの僕のプライバシーや人権を侵害してくる行為には断固として抵抗する姿勢だけは失ってはいけない。
(まあ本当に今さらだし、そもそも今となっては宇宙人となってしまった僕に『人』権なんてものが適応されるのか微妙な気はするけども)
「あら? 恋人として彼氏の性癖を把握しておくのは当然のことではないかしら?」
「当然じゃねぇよ! ていうかそれは僕のスマホから勝手にデータをハッキングしたことの説明にはなってないからな!」
「あら? 私が久間倉君のスマホデータをハッキングしたことは分かっていたのね? ならもういいでしょ? くどいようだけれど、私は今忙しいのよ」
「よくねぇー!!」
僕のプライバシーに関わるようなことをそんなあっさり流されてたまるか。
――ドン!
と、そんな風に日常的な(?)会話を繰り広げていると、突然遠くから大きな爆発音が聞こえてきた。
『――!?』
振り返って窓の外を見ると、市街地のあたりから煙が上がり、所々に炎のようなものが見える。そして次の瞬間には、先ほどまでエロ動画を流していた村雨のスマホが振動して、LINEの通知が来たことを僕たちに告げる。
おそらく、というか間違いなく『組織』からの連絡だろう。
「久間倉君――」
「ああ。行こう、村雨」
「ええ」
僕と村雨はついさっきまでのふざけた言い合いが嘘のようにそんな風に短い会話を交わすと、二人して生物準備室を後にして速足で屋上へ続く階段を上がった。
そして、屋上までたどり着くと、
「――変身!」
と、僕はそう叫んですぐに超人化した。
「しっかり掴まっていろよ?」
「何があっても離さないわ。一生ね」
何やら怖い単語が聞こえてきたような気がしたけれど、僕は別段気にすることなく彼女の愛の告白は華麗にスルーして、村雨を抱きかかえて現場へと飛び立った。
なんだかんだ言いながらも結局僕と村雨はパートナーであり、運命共同体なのだ。
――だって、宇宙人であり、もはや人間ではない僕には、精々村雨とともにこの街を守ることくらいしかできないのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます