第21話 僕はヒーローなんかじゃない その2

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「折角、醍孔先生からああ言われたのだから、明日は週末デートと洒落込みましょうよ?」


 二人して相合傘で帰る途中で村雨がそう切り出してきた。


「いや、洒落込むも何も、お前毎週週末のたびに僕の部屋にやってくるじゃないか――しかも勝手に玄関のドアを開けて」


 そもそも、鍵をかけているはずのドアからどうやって入ってくるんだこいつは?


「あれはご近所同士で親睦を深め合っているだけよ。ねぇ久間倉君、私とデートに行きましょうよ? 実は私まだショッピングモールに行ったことないのよ。ぜひ久間倉君と一緒に行ってみたいわ」


 そう言って村雨は相合傘でただでさえ密着している状態からさらに僕の方に体を近づけてくる。


「分かった、分かったから。行こう、ショッピングモールに。だから少し離れてくれ、歩きにくいから」


 僕は密着してくる村雨を押しのけながら渋々承諾する。……別に密着してくる村雨の柔らかい感触に篭絡されたわけじゃないよ? 本当だよ?


「いやいや篭絡って何を今さら。久間倉君とはすでに一夜を共にした仲じゃない」


「誤解を生むような表現をするな。深夜に僕のベッドにお前が勝手に潜り込んできただけだろ」


 朝起きて自分の寝ているベッドにこいつが裸で寝ているのを見た時の衝撃といったら、思い出すだけで今でも軽くトラウマになるレベルだ。


「あら? 不可抗力とはいえ、私が久間倉君と同じベッドで一夜を過ごして何もなかったと本気で思っているの?」


「………………え? マジで!? 僕知らないうちに何かされたの!?」


「あの日の久間倉君はとても情熱的だったわ。今でもはっきりと覚えているもの」


 村雨は頬を赤くしながら話す。


「いやいやいやいや、嘘だよね? お願いだから嘘だと言って!?」


「ふふ、そんなに焦って可愛いんだから。安心して、冗談よ」


 そう言って村雨はにやけた顔で笑う。


「生きた心地がしねぇよ」


「安心して。自分がメンヘラであることは十分自覚しているけれど、それでも私は今どき珍しいくらい乙女チックな女の子だと自負しているのよ? 最初にそういったことをするのはお互い結婚してからと決めているわ――だからあと五年は我慢するわ」


「愛が重いよ!!」


「だから頑張って受け止めてね」


 そう言って村雨は僕をからかったあと、


「ねぇ、久間倉君は何で雨が嫌いなの?」


 唐突にそんなことを聞いてきた。


「雨をみると、嫌なことを思い出してしまうんだよ」


 特に嘘をつく理由もないので僕は正直に答える。


「嫌なことってあの宇宙人のこと?」


「……そうだよ」


 村雨はこういうところが無駄に鋭い――だから嫌いだ。


「私といるときに他の女の話なんてしないでよ」


「そっちから聞いてきたのに理不尽過ぎない?」


 それに女と言ってもあいつは――宇宙人だ。


 僕たち人間ごときが嫉妬していい存在じゃない。


「それは無理ね。私は嫉妬するわ。たとえ相手が人間を超越した存在であってもね」


「木原って研究者と昔何かあったのか?」


 先ほどの村雨よろしく唐突に僕は問いかける。


「昔好きだったの」


 村雨は答える。


「僕といるときに他の男の話なんてしないでくれ」


「嫉妬した?」


「……悪いか?」


 僕は目を合わせず答える。


 僕は村雨の方を見ずに言う。


「安心して。あの男とは何もなかったわ。本当よ? あの男は私の愛を受け止めきれなかったから。だから、あの男とは寝てないわ」


 村雨は嬉しそうに僕の方を見ながらそう答えた。


「別に僕とも寝たわけじゃあないけどな」


「これから寝ることになるわ」


「五年後にな」


 そうやってお互い素直になれない思春期真っ盛りの僕たちは雨の中、同じ傘に入って歩いて帰った。


 村雨に比べて傘を持っている僕の肩の方が明らかに濡れていたけれど、それは決して僕が彼女を大切に思っているわけではなく、単に僕は宇宙人で彼女よりも強い存在であるからというだけだった――少なくとも、この時の僕は嘘偽りなくそう思っていた。

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