第3話 宇宙人と改造人間の少女 その3
008
考えてみればなかなかシュールな光景だった。
壁などが破壊されて崩壊待ったなしの市街地に立つ僕とその背後にうずくまっているのはボロボロで今にも十八禁送りとなりそうなストーカー美少女――そして目の前には筋肉の塊のようなおおよそ人間とは呼べないものが直立不動でこちらを見ていた。
「えっと……それじゃあ自己紹介している時間もないみたいだから簡潔に聞きたいんだけれど、あれは何? あれも超人ってことで合ってるか?」
「いいえ、あれは『モンスター』よ。超人の成れの果て。力を得た代わりに自我を失ってしまったような存在ね。こういうことに関わっていると結構頻繁に出くわすわ」
「……まるで世紀末に生きているみたいだな」
僕はついさっきどこかで聞いたような冗談を口にする。
まあとりあえず僕がやるべきことは分かった。
「巻き込むといけないから、そこを動かないで」
次の瞬間、僕は目の前のモンスターに突進する。
相手が迎撃のために放つ拳も紙一重でかわし、こちらも思いっきり拳を突き出す。
モンスターの腹部に直撃した拳はその反動で相手をはるか後方に吹き飛ばす。背中を壁に打ちつけられたモンスターは体中から血を流し、一撃でノックアウトした。
「――嘘、でしょ?」
背後でうずくまる村雨は目を見開いて信じられないようなものを見る目でこっちを見る。
「さて、それじゃあ一応とどめを刺しておくか……」
そう言って僕が瀕死のモンスターに近寄ろうとした瞬間、そのモンスターは目を見開いて声にならない声を上げた。
『ヴァヴァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!』
次の瞬間にはモンスターは『溶けて』――そして消えた。
文字通り跡形もなく、おそらく細胞一つ残すことなく、それこそヒーローマンガなどでは絶対にすることがないような――まるであのモンスターの細胞ごときれいさっぱり消え去るような消え方で――そこには『絶対に証拠を残さない』という誰かの意思が見え隠れしているようだった。
それからしばらく呆然としていたものの、あまりにすぐ片付いてしまったため、僕としてはどうしても拍子抜けしてしまった感は否めなかった。
この後の状況を確認するため、僕は振り返って村雨の方へ歩み寄る。
「えっと……この後って一体どうすればいいのかな? やっぱり犠牲者の救助とかを手伝った方が――」
『いいのかな?』とそう付け加えるつもりだった。
でも僕は彼女――村雨の方を見た瞬間に言葉を失ってしまった。
僕の目の前にいる村雨は先ほどの戦闘中に吹き飛ばされていた拳銃を拾い上げ、そして明確な殺意を持って僕に向かって銃口を向けながら
「――死ね!」
と、もう疑いようもないくらいの殺害の意思を持って――それこそ先ほどのモンスターなんかとは比べ物にならないくらい殺気に満ちた目で彼女は僕に対して銃口を引いた。
放たれた銃弾はよく響く銃声を鳴らして僕の頭部めがけて一直線に飛ぶ。
僕は、なぜかその銃弾をかわすことはせず、その後銃弾が僕の頭に鈍い音を立てて衝突する音をどこか遠くで聞いているだけだった。
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