どんなジャンルでも



 絵美は少し躊躇している。


 いつもは授業で使っている教室から音が漏れ聞こえていて、その前で背の高い金髪と茶髪の男性が談笑している。金髪の方はピアスやネックレスがジャラッとしていて、この大学の人なら悪い人ではないはずだと思いつつ、やはり尻込みしてしまう。


 いや、このサークルしかないんだ、と自分を鼓舞する。手の中にある新歓ビラに書かれていた、「どんなジャンルでもOK」の文字を信じて、ここまでやってきた。


「あれ、新入生の方ですか?」


 ビックリして、ふぁい、と絵美は間抜けな声を出してしまう。声をかけてきたのは茶髪の男の方で、意外にも優しい声だった。


「見学、いつでも入場OKですよ。入ります?」


 彼の手が示した先にあるオレンジ色のドア。そこを開けてもらえば、きっと決心が固まる。でも、その前に。


「あの、ビラのここを見て来たんですけど」


 絵美は隅に書かれた手書きの「どんなジャンルでも」を指さす。彼はその文字に目を通して、


「オーケストラとかはもちろん無理だけどね。どんなのがやりたいんですか?」


 と尋ねてきた。絵美は音楽プレイヤーを取り出して、おずおずと彼に見せると、眼鏡の下で細い目が弾む。


「Cymbalsか! 僕も好きなんですよ。なんなら、ベースは弾きますよ」


 茶目っ気たっぷりに彼は言った。リップサービスかもしれないし、女子相手だから合わせたのかもしれない。それでも、目の弾み方から、好きだというのは本当のことに思えた。


 決めた。


「ぜひ、見学させてください!」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る