第5話

翌日の夜、ロウは缶ビール2本とビーフジャーキーを購入し、事件のあったアパートへとやって来た。


101号室のドアをノックすると、ムロが顔を出す。




「あれ…… 昨日の刑事さんではありませぬか」




「ちょっと近く寄ったんで、一杯どうすか?」




 最初は困惑していたムロだったが、ビールで乾杯し、隣の小島恵子の話になると、途端に饒舌になる。




「あの胸ヤバいっしょ。 パフパフされてぇ~」




「ムロさんって、巨乳好きなんすね」




「何を言うか、少年。 男はみんな巨乳好きなのだよ」




 会話がヒートアップし始めた所で、ロウが立ち上がった。




「ちょっとトイレ借りていっすか」




「んだよ、早く済ませてこいよ」




 廊下に出ると、チラと壁の方を見やる。




(この隣が黒焦カズオの部屋……)




 壁にはグラビアのポスターがセロテープで止めてあり、下の部分が一カ所、剥がれ欠けていた。




(……)




 更に、トイレに入ると、気になる置物が窓際に置かれていた。


アニメキャラクターのフィギュア、サボテン、そして、竜の頭。




(……間違いねーな)




 トイレから出ると、突然、座っていたムロの胸倉を掴み、叫んだ。




「やっぱりてめーが黒焦カズオ殺しの犯人だろ!」




「なっ……」




「お前は隣の小島恵子にそそのかされて、ダンボの魔法を使って黒焦カズオを燃やしたんだ」




「ふ、ふざけるなァッ」




 腕を振り払い、息を整える。




「はあっ、はあっ…… 一体、どうやって私が隣の男を殺したと言うのだ!?」




「お前と小島恵子は共犯だったんだよ。 だが、お前を部屋に招き入れれば、他の住人に気付かれる恐れがある。 だから、この部屋の中から、魔法を使ったんだ」




「はっ、馬鹿を言うなっ! ダンボで人体発火は起こせまい」




「それが、おこせんだよ」




 ロウはおもむろに廊下へと出て、玄関に立てかけてある杖、トイレのドラゴンヘッドを手にして戻ってきた。


丸い玉をクルクルと回し、外す。


そして、ドラゴンヘッドに付け替えた。




「こいつで、魔法の威力がかなりアップするハズだ」




「……は、ははは、ははははは」




 突然、その場で笑い始めるムロ。




「確かに、そいつは威力をかなり増幅してくれるよ。 でも、どうやってこの部屋から隣の男を狙うんだっ! 壁に阻まれているだろうがっ」




「しらばっくれんじゃねーよ!」




 ロウは、グラビアのポスターを思い切り剥がした。


グラビアアイドルが真っ二つになり、壁には直径5センチ程度の、小さな穴が一つ開いていた。




「……!」




 ムロの顔が引きつる。




「お前は魔法をコントロールして、小さな球体にして飛ばしたんだ。 200℃の熱の球体をな」 




「……ぐうっ」 




 ムロは、観念したかの如く、その場に崩れ、一言も発することが出来なくなった。


















 事件の経緯として、やはり、小島恵子は隣人のムロと共犯だった。


小島恵子はムロをテンプテーションの魔法で誘惑し、操った。


他者を巻き込み利用した殺人として、小島恵子には重い罪が科せられることとなった。


ムロの罪については、現在審議中である。
















「動機は、黒焦カズオの浮気、かぁ」




 エドが手を頭に組んで、呟いた。




「サッキュバスでも嫉妬、すんだな」




 ロウがパソコンで報告書をまとめながら、言った。




「で、お前の両親を殺した犯人の手掛かりは掴めたのか?」




「……いんや。 ただ、弱い魔法でも工夫次第で人体発火は起こせるっつーのは分かった」




「やっぱり、資料を漁るより、現場に出た方が得るものはでかいか」




「……」




 急に黙り込むロウ。




「何だよ、同意しないのか?」




「……同意したら、仕事振るつもりだろ」




「……バレたか」




 フン、と鼻で笑うと、再びキーボードを打ち始める。


すると、電話が鳴った。




「はい、シンジュクク警察署です。 はい、はい…… ロウ先輩、また焼死体です!」




 ロウは、椅子から転がり落ちそうになった。




「またかよっ」






     




続く


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