231章

ピックアップブレードをかまえながらも後退あとずさるノピア。


彼はズレてもいないスカーフの位置をなおしながら、その表情ひょうじょう強張こわばらせていた。


「今度はどんな手を使うのかしら? ちょっぴり期待きたいしちゃうわ」


前からはクロエがせまってくる。


自分はここで死ぬ。


あたまを使った作戦さくせん裏目うらめ出てしまい、今のクロエは先ほどよりも強力きょうりょくになってしまった。


その上、ラスグリーンが殺された。


ノピアは彼のことをよく知っているわけではないし、ましてや友人でもない。


むしろストリング帝国に歯向はむかうてきだったと言っていい。


だが、今いるストリング城の戦闘せんとうでのみじかい時間で、ノピアの中で何かが変わっていた。


世界をすくう――。


クロエをたおす――。


それぞれ細かい目的もくてきちがえど、この場で共にながしたアン、ロミー、クリア、ラスグリーンたちに――。


彼は、自分でも思ってもみなかったあるしゅ敬意けいいはらっていたのだった。


「ラスグリーン……」


クロエがまとう緑色のほのおを見ながら、ラスグリーンの名をつぶやくノピア。


彼は、ただむねめ付けられていた。


以前のノピアならこんな感傷かんしょうひたることなどなかっただろう。


だが、同期どうきだった友人イバニーズ·アームブリッジ――。


自分のことを愛してくれたリンベース·ケンバッカーという女性――。


そして、レコーディー·ストリングことストリング皇帝3人の死が、彼に人間らしい感情かんじょうあたえていたのだった。


「あなたがそんなにかなしむなんてね。私も彼の創造主そうぞうしゅとしてうれしく思うわ」


ゆっくりと歩いてくるクロエ。


その歩みは、おびえているノピアの反応はんのうを楽しんでいるかのようだ。


感傷から恐怖きょうふへと気持ちが切りわっていくと、ノピアの頭の中で突然声が聞こえ始めた。


「ノピアって、俺のこと好きだったの?」


あっけらかんとした緊張感きんちょうかんのない声。


それは、先ほどクロエにわれたラスグリーン·ダルオレンジの声だった。


……こいつはどういうことだッ!?


お前はたしかに殺されて……?


内心ないしんあせるノピアに、ラスグリーンは言葉を続ける。


「いや~なんかれちゃうね。まさかそんなふうに思ってもらえてたなんて」


いいから説明せつめいしろ――。


ノピアがそう思うと「つれないね~」と、ラスグリーンが笑う。


よく知っているいつも彼の笑い声を聞いたのもあってか、ノピアは冷静れいせいさを取りもどしていた。


そして、ラスグリーンはノピアに言われたとおりに説明を始める。


何故クロエに喰われ、灰にされた自分が生きているのかはよくわからないが、今ラスグリーンはクロエの体内たいないで生きている。


この心話テレパシーは、Personal link(パーソナル·リンク)――通称つうしょうP-LINKの力を使って、ノピアに話しかけているのだと。


……とりあえず、生きていたのはよかった。


ノピアは内心でそう思っていた。


「もう体ははいにされちゃったけどね~」


だか、絶望的ぜつぼうてきなことをあかるく言うとラスグリーンに、彼はあきれていた。


ノピアは、大きなため息をつきながら目の前にいるクロエの姿を見た。


先ほどまでふるえていた手足がなめらかに動く。


それはラスグリーンのおかげなのか、恐怖でかたまっていた体が、ほんの少しだけ緩和かんわしたように感じていた。


……ラスグリーンのやつ


もしかしてわざと……?


そう思いかけたノピアだったが――。


「うん? なんだいノピア? そんなことよりも俺に考えがあるんだ」


ラスグリーンによってさえぎられる。


……考えだと?


「ああ、クロエの奴をやしくしてやるんだ」

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