224章

グレイが出した灰色はいいろ空間くうかんに飲みまれてしまったニコ。


アンは、最後さいごに聞いたニコのき声がみみり付いてはなれないまま、グレイにりかかっていった。


「なんで、なんでニコを!!! ニコは私たちの家族かぞくだろう!!!」


さけびながらピックアップブレードのやいばるうアン。


その体には、ふたた機械化きかいかが始まっていた。


機械の部分ぶぶんがアンの体を侵食しんしょくしていくと、彼女の攻撃こうげきするどさ、速度そくど一緒いっしょに上がっていく。


ブレードのち合いではわるいと思ったグレイ。


アンに向かって手をかざし、灰色はいいろ空間くうかんを出したが、彼女の動きがはやすぎてとらえることができない。


そして、アンはブレードを持ったグレイの手を斬り飛ばした。


いたみでさけぶグレイ。


その様子ようすを見ていたクロエは2人へと近づいていく。


「さあアン、グレイを殺すのよ。あなたの大事なひつじかたきをとりなさい」


そして、感情かんじょうに身をまかせるのだ――。


クロエはそう言葉を続けた。


アンはたおれているグレイを見ていた。


彼の斬られたうで部分ぶぶんからは、バチバチと火花ひばなっている。


「さあ!! 早くるのよ、アンッ!!!」


あおるかのように声をり上げたクロエ。


だが、アンはにぎっていたブレードのスイッチを切った。


すると白いひかりの刃が消え、彼女の全身を侵食していたマシーナリーウイルス――その機械化も止み、右手以外すべてが生身なまみへともどっていった。


「私には殺せない……」


アンはそうつぶやくと、持っていたピックアップブレードをほうり投げた。


そして、クロエのほうへと体の向きを変える。


「たとえ何をしても……私にグレイは殺せない……」


ふるえながら――。


なみだこらえながら言うアン。


その表情ひょうじょには、ニコをうしったかなしみとグレイへのいかりがざり、さらには彼女の家族かぞくへの思いがふくまれていた。


矛盾むじゅんする感情――。


それがアンの体内をめぐっているマシーナリーウイルスを安定あんていさせ、今の彼女は完全に自分を制御コントロールしていた。


「あ、そう。まあ、どっちでもいいんだけどね」


クロエがそう言うと同時どうじに――。


彼女の体につなががっていた無数むすうふと配線はいせんが、アンの体へとおそかった。


大蛇だいじゃのようなその配線は、アンの全身へとさっていく。


そして、配線が躍動やくどう――。


アンは苦痛くつうのあまり大声を出さずにはいられなかった。


それを見てクロエが言う。


「マシーナリーウイルスでわれわすれていたほうがいたみを感じずにすんだのに」


「あぁぁぁッ!!!」


「あらあら、はしたない声を出しちゃって。それにしても、ここへ来て“適合者てきごうしゃ”として完全体になるなんて、あなたも不運ふうんね、アン」


クロエが苦痛で叫ぶアンを見て笑っていると――。


そのとき、突然灰色の空間があられた。


「うん? 何をしてるのグレイ?」


クロエがグレイの仕業しわざだと思ったのだが、彼は倒れたままだ。


そして、その空間からはしんじられない者が現れた。


「なッ!? どうしてッ!?」


驚愕きょうがくするクロエ。


そこから現れたのはゆたかな白い毛を持つ羊――。


電気仕掛でんきじかけの子羊ニコの姿すがただった。

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