223章

玉座ぎょくざで、2本のピックアップブレードのやいばはげしく火花ひばならしていた。


1つはっ白なひかり――。


もう1つは――グレイの持つ灰色はいいろの光をはなっている刃だ。


何度も刃をかさね、そのたびにニコがくるしそうにく。


アンはこれまでグレイがけんあつかえることなど知らなかった。


何故ならば、彼女がストリング帝国の訓練兵くんれいへい時代に、一度も稽古けいこをつけてくれたことがないからだ。


グレイは、アンがおさないときから親代おやがわりとして様々さまざまなことをおしえてきた。


文字もじの読み書き、数字すうじ計算けいさんから、掃除そうじ食事しょくじの作り方――。


さらに人物じんぶつ風景ふうけいの絵のき方、ブーツのひもむすび方など。


おそよたたかいの以外いがいのこと――教養きょうようや生活に必要ひつようなこと、そして人生を楽しむことは教えてくれた。


彼女は、まさかグレイがここまで剣を使えると思ってもみなかったため、おどろいていた。


グレイは、そんなことを考えていたアンの一瞬いっしゅんすき見逃みのがさず、彼女の脇腹わきばらとらえる。


だが、アンは生身なまみのほうのうでが突然機械化きかいかし、そのブレードによる突き――攻撃こうげきはじいた。


激しく後退こうたいしたグレイはしずかに歩き出し、ふたたびアンへと近寄ちかよっていく。


すごいな、アン。マシーナリーウイルスを完全に制御コントロールしている」


先ほどグレイの脇腹への一撃を弾いたアンの左腕が、いつのにか生身にもどってた。


どうもグレイが言うに、今のアンはマシーナリーウイルスによる機械化を、自在じざいに出し入れできているようだった。


ゆっくりと近寄りながら、グレイは言葉を続ける。


「ブレードの腕も俺が知っているころとはくらべものにならないくらい上達じょうたつしている。アン……君には良い出会いがあったんだな」


グレイがそう言うと、アンはにぎっていたピックアップブレードのスイッチをオフにし、白い光の刃を引っめる。


「その出会いが君をつよくした……」


つぶやくように言うグレイ。


ブレードをろしたアンは、近づいてくるグレイに後退あとずさってしまっていた。


「グレイ……お前とは……戦いたくない……」


くび左右さゆうりながら、今にもなみだながしそうな顔で言うアン。


グレイはそんな彼女の目の前――自分のブレードの間合まあいまでみ込む。


「やれやれ。だけど、あまいのは相変あいかわらずだな」


そして、ブレードをアンへとり落とす。


容赦ようしゃなくおそってくる灰色の刃。


アンはブレードを下ろしたまま、グレイの攻撃をけ続ける。


それから数回の攻撃を避けると、アンはかなり後ろへ飛び、グレイから距離きょりを取った。


「グレイ……まよっているんだろう? お前に私を殺せるはずがないんだ……」


「……運命うんめいにはさからえないよ。生まれ持った顔や能力のうりょく、そしてわされた使命しめい……。俺も君も手持ちのものを使って生きていくしかないんだ」


懇願こんがんするアンを尻目しりめに、グレイはその手をかざした。


すると、アンのそばに灰色の空間くうかんあらわれる。


「それを拒否きょひすること……その意味がわかるかい、アン? 何もしないのなら君を待っているのは死だけだ」


そして、グレイの言葉と共に、灰色の空間がアンの体を飲み込もうと襲いかった。


アンは素早すばやころがり、間一髪かんいっぱつ灰色の空間からまもる。


その灰色の空間がとおった後は、ぽっかりと綺麗きれいあなができていた。


それからもアンが灰色の空間を避け続けた。


そのせいで彼女たちがいる玉座のは、まるでネズミに食われたチーズのように、部屋中へやじゅうが穴だらけになってしまっていた。


「いつまで逃げ続ける気だ」


グレイは何度なんどかの攻撃の後に、そうアンへと言った。


「お前とは……戦わない」


だが、アンの返事はその一点張いってんばりだった。


その言葉をまた聞かされたグレイは、アンがいないべつの――ある方向ほうこうへと手を翳した。


その手の翳した先には――。


「なら……ニコに先に消えてもらおうか」


「やめろぉぉぉッ!!!」


グレイの言葉を聞いたアンは、さけびながら飛び出した。


だが、ニコは灰色の空間へと飲み込まれてしまった。

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