214章

大広間おおひろまあらわれたアンとノピア。


ノピアは、ロミーに向かってさけんでいるアンを見てあきれていた。


何故グラビティシャド―を助けるんだ?


それともこの女は、ロミー残虐ざんぎゃくなことをしてほしくないだけなのか?


どちらにしてもノピアから見れば、アンのしていることは安っぽい人情にんじょうドラマ――または三文芝居さんもんしばいにしかうつっていなかった。


その後ろからアンと同じくロミーを止めようとニコが大きくく。


それを聞いたノピアは、耳をふさぐような仕草しぐさをしてから、小さなため息をついた。


このひつじアンあいつと同じかと。


「アン……あなた……」


アンの姿を見たクリアは、思わずなみだぐんでしまっていた。


よくあの意気消沈いきしょうちんした状態じょうたいから立ち直って来られたものだと、彼女は片手かたてで顔をおおって嗚咽おえつする。


「やっぱり来たんだね……」


よろびでうつむいているクリアとは反対にラスグリーンは、いつもの彼そのままの笑みを向けていた。


だが歓迎かんげいしている2人とはちがい、ロミーはアンのことをにらみ付けている。


それは、グラビティシャドーへの拷問ごうもんにも攻撃こうげきを止められたからというわけではなさそうだった。


「今さら何しに来たんだ? 腑抜ふぬけは戦場せんじょうに来るな。邪魔じゃまするならお前も殺すぞ」


ロミーは、アンにたいして敵意てきい以上に殺意さついいだいていた。


やくに立たないばかりか、自分の邪魔までするアンに、彼女は苛立いらだちをおさえられないでいる。


「ローズ……お前……その顔……?」


アンは、睨み付けられていることなど気にせず、ロミーの顔を見て驚愕きょうがくしていた。


何故ならば、ロミーの顔の表面ひょうめん機械きかいで覆われていたからだ。


まるで出来損できそこないのサイボーグ。


アンは以前に感情かんじょうに身をまかせた結果けっか、機械化した自分もこのような姿だったことを思い出す。


そして、ロミーの今の姿にもむねいためた。


ロミーの体からは、アンがマシーナリーウイルスの影響えいきょうた力と同じ――電撃でんげきがバチバチと音を鳴らしている。


「ローズ、感情を抑えるんだ。じゃないと、体内のマシーナリーウイルスが暴走ぼうそうしてお前の体を機械に変えてしまうぞ」


アンが心配そうに声をかけたが、ロミーはただ表情ひょうじょうゆがませるだけだった。


「いい……機械になったっていい。どうせあたしにはもう何もないんだからな。こいつらを殺せるならあたしは、機械にでも合成種キメラにでもなってやる」


ロミーの本当の家族かぞくあねであるアンだけだ。


だが、彼女にとってもうアンは家族ではなかった。


ロミーにとっての家族は、母親代わりだったプラム·ヴェイス――。


共にらしてきた半身はんしんクロム·グラッドストーン――。


そして、いつもそばにいた電気仕掛でんきじかけの黒子羊ルーだけであった。


だが全員、もういない。


「そんなことを言うなよ……。私はお前に……人間でいてほしい……だから、お前もッ!!!」


「うるさい!! これ以上ゴチャゴチャ言うならお前から殺してやる」


アンの言葉をさえぎったロミーが、彼女へ向かって行こうとすると――。


「ああ……すさまじい感情がながんでくる……。素敵すてき……素敵よ、あなたたち……」


いつの間にか現れていたクロエが、恍惚こうこつの表情でもだえていた。

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