205章

ノピアの姿を見たエヌエーは、まった状況じょうきょう把握はあくできないでいた。


何故ならばロミーから聞いていた話では、彼はアンとロミー、ニコをすくうためにクロエと対峙たいじしていたと聞いていたからだ。


戸惑とまどっているエヌエーのそばでブラッドが、その顔をゆがめている。


それもそのはずだ。


反帝国組織はんていこくそしきのリーダーであり、彼ら父親のような存在そんざい――バイオは、もとただせばノピアがメディスンをそそのかしたことによってそのいのちうしなったのだ。


言うならば、バイオ·ナンバーにとってノピア·ラシックは親のかたき


いくら彼がこれからコンピュータークロエとの戦闘せんとう戦力せんりょくになるとはいえ、その心中しんちゅうおだやかではいられないだろう。


エヌエーもブラッドも、とてもノピアを信用できていないように見える。


「まさか君から通信つうしんが入るとはな。正直おどろいたぞ」


だが、メディスンは普段ふだんと変わりなくノピアへ声をける。


ノピアの行動でバイオを死なせてしまったのはメディスンだ。


それでも、メディスンは彼を信用していた――いや信用せざるえないと言うべきか――。


ノピアはまたズレてもいないスカーフの位置を直しながら、フンッとはならして返した。


それを見てブラッドは苛立いらだち、エヌエーも表情ひょうじょう強張こわばらせる。


「そんなことよりも、アン·テネシーグレッチはどこにいる?」


「なんだよ、お前もアンだよりか? こりゃ大層たいそうすけだな」


ノピアの不躾ぶしつけな質問にたいして、ブラッドが皮肉ひにくを返した。


だが、ノピアは彼を無視むししてメディスンのほうを向いていた。


それが、さらにブラッドを苛立たせた。


「アンは……いることはいるのだが……。通信でも話したとおり、会っても無駄むだだと思う……」


かまわん。それを判断はんだんするのは私だ。やつに会わせろ」


てるように言うノピアを連れてメディスンは、アンのいる軍幕ぐんまくテントへと向かった。


その後ろについて来ようとしたブラッドとエヌエーに、メディスンは来ないように言う。


ブラッドは、どうしてだ? と思わず大声を出した。


エヌエーも何故なのかとたずねる。


「今のアンに愛やら友情ゆうじょうやくに立たん。『ヴェニスの商人』じゃ世界はすくえんからな。悪役あくやくひどい目に喜劇きげきなど現実げんじつではありない話だ」


「てめえ、何を意味のわかんねえことを言ってんだよッ!」


メディスンが答える前にノピアが返事をすると、その言葉におこったブラッドがつかかろうとした。


ブラッドはノピアの言っているたとえ話は理解りかいできていなかったが、それが侮辱ぶじょくに近い言いまわしであることを感じたからだった。


そんなブラッドを無言むごんで止めるメディスン。


そして、ブラッドとエヌエー2人へ自分の顔を向けた。


「もし親父なら……そしてシックス……あいつだったら……過去かここだわらず、未来を良くしようとするはずだ」


その言葉を聞いたブラッドとエヌエーは、それ以上何も言うことができなかった。


そして、メディスンは、ノピアを連れてアンのいる場所へと歩いて行った。


バイオ·ナンバーの野営地内やえいちないを進んでいくメディスンとノピア。


あたりを見渡みわたしながらノピアは、こんな軍隊ぐんたいとも呼べない集団しゅうだんでよくやると思っていた。


「今、こんな素人しろうとあつまりでとか思っていただろう?」


まるでメディスンに心の中をのぞかれたように思ったノピア。


それから、だまって歩いていた2人に会話かいわが始まる。


「メディスン……前に君と会ったときとは別人べつじんのように感じる」


ノピアがつぶやくような声で言うと、メディスンは笑みをかべた。


その笑みは、まるで長年の友人にからかわれたようなものだった。


「それはおたがさまだな。相手を挑発ちょうはつするような言い回しや威圧的いあつてき態度たいどは変わっていないが、君も私が知っているノピア·ラシックではないように思うよ」


メディスンがそう返事をすると、ノピアは「そうかもな」と笑みを返した。


「あと、ブラッドの奴をあまりからかわんでくれ。エヌエーもそうだが、あいつらは純粋じゅんすいというか、単純たんじゅんなんだ」


「私としては冗談じょうだんの1つでも言ったつもりだったのだが……わかった、おぼえておこう」


2人はアンのいる軍幕テントに到着とうちゃく


メディスンは中にいるアンへ一声ひとこえへ掛け、テントへと入って行った。


そしてメディスンは、簡易かんいベットで横になっているアンに向かってノピアが来たことを伝えようとすると――。


「いいザマだな、アン·テネシーグレッチ」


ノピアがメディスンを押しのけて、寝ているアンの前に立つ。


そして、彼はこしびたピックアップブレードをにぎり、そこからマグマのようなひかりやいばを彼女へと向けた。


「早くきろ。それともこのまま殺されたいか?」

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