204章

エヌエーはうつむきながら、メディスンが今のアンを見て言ったことを思い出していた――。


「おいアン! お前があきらめちまってどうすんだよ!」


「そうよアン! あなたのいもうとや友達はクロエのところへ行っちゃったんだよ!」


完全に意気消沈いきしょうちんしているアン。


そんな彼女にブラッドとエヌエーは必死ひっしで声をけた。


ブラッドもエヌエーも、シックスたちの死を聞いて落ち込んでいた。


だが、二人は自分をけしかけていた。


今はかなしんでいるよりも先に、ブラッドとエヌエーの2人は、ふたたびアンにふるい立ってもらいたかったのだ。


現在げんざいクロエが、世界中をストリング城で回りながら、人類じんるい滅亡めつぼうさせると宣言せんげんしている。


止めれるものなら止めてみろと言っているのだと、2人は声をかけ続けた。


だか、アンは何も答えない。


ただ毛布もうふにくるまっているだけだ。


ニコもブラッドやエヌエーと同じ気持ちなのか、アンの体をすっている。


それでも彼女は何の反応はんのうも見せない。


「寝かせておいてやれ。こいつはもう限界げんかいなんだろう」


ブラッドとエヌエーにそう言ったメディスン。


彼にそう言われた2人は言葉を止め、ニコも揺すっていた手をはなした。


そして、メディスンは言葉を続けた。


もういいだろう。


アンは大事な者の死を見過みすぎたのだ。


そんな彼女に、お前たちはまた戦えと言うのか?


それは随分ずいぶん残酷ざんこくだなと、彼は言った。


「そいつはほうっておいてやれ。俺たちは戦いに行くぞ。どうやら帝国のほうはもう動き出したようだからな」


メディスンはを向けたまま言うと、そのまま軍幕ぐんまくテントから出ていった。


クロエの人類滅亡宣言を聞いた世界中の人間たちは、クロエをたおそうと動き出し始めていた。


それはもちろんストリング帝国や、メディスンらのぞくするバイオナンバーも同じだった。


だが、まだ多くの場所で帝国とバイオナンバーの戦争は続いている。


この混乱時こんらんじ――。


世界中で戦っていた帝国とバイオ·ナンバーは、各部隊かくぶたい指揮しきする者の性格せいかくによって左右さゆうされてしまっていた。


帝国は指導者しどうしゃであったレコーディー·ストリングをうしない――。


バイオナンバーはすでにリーダーであったバイオがくなっている。


それでも、メディスンのような帝国との戦いを後に回す選択せんたくをする指揮官もいたが、すでに両軍りょうぐんとも統制とうせいはとれていなかった。


「……アン。ちゃんと食べてね」


エヌエーはそう言うと、かなしそうにしているニコの頭をでて軍幕テントから出ていった。


アンはベットで横になりながら考えていた。


戦うなんてもういやだ。


勝ったときでさえ何もてこなかったのだ。


むしろ失うばかりだ。


これ以上生きていて何になる? と、彼女はそのことしか頭にかんでこない。


ニコはそんなくるしそうなアンを見て、ただそばで立ちくしていることしかできなかった。


……アン……しっかりしてよ。


あなたはどんな状況じょうきょうだって、あたしたちを引っ張ってくれたじゃない。


シックスが処刑しょけいされそうになったときだって……。


あなたがもうあきらめていたあたしたちに道をしめしてくれた……。


それとも……メディスンの言うとおり、もう限界げんかいなの……?


このままじゃ世界はほろぼされちゃうよ……。


今にも泣きそうな顔をしたエヌエーが歩いていると――。


突然空から航空機こうくうき――オスプレイがりてきた。


それは、ストリング帝国の科学力かがくりょくほこ兵器へいきの1つ――トレモロ·ビグスビー。


全長約17m 全幅約25m 全高約7m。


垂直離着陸型すいちょくりちゃくがたのそれは、ヘリコプターの垂直離着陸能力を持ちながら長距離飛行移動ちょうきょりひこういどう可能かのうであり、最大で約20人は乗員可能。


その帝国のものであるトレモロ·ビグスビーが、反帝国組織はんていこくそしきバイオ·ナンバーの野営地やえいちに何故と、空を見上げたエヌエーは考えていた。


「やっと来たな」


「なあメディスン。信用できるのかよ?」


エヌエーが歩いていると、前にメディスンとブラッドがあられ、何やら話をしていた。


そして、トレモロ·ビグズビーが着陸ちゃくりく


ったエヌエーが、メディスンとブラッドに声をかけた。


一体こんなときに誰が来たのか? と。


すると、トレモロ·ビグズビーから人が出てきた。


その様子を見ながら、メディスンがエヌエーへ言う。


「俺もお前も、そしてブラッドもよく知っている人物だ。そして、これからクロエと戦うのに必要ひつような男……」


三人の前にあらわれたのは、深い青色の軍服――アンと同じストリング帝国兵のふくを着た男だった。


エヌエーは、男の姿を見て狼狽うろたえ始めていた。


「あなたは……ノピア将軍しょうぐんッ!?」


そこには不機嫌ふきげんそうにくびに巻いたスカーフの位置を直す男――ノピア·ラシックが立っていた。

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