203章

軍幕ぐんまくテントがなら野営地やえいち


反帝国組織はんていこくそしきバイオナンバーのじんで、食事をのせたトレイを運ぶ銀髪ぎんぱつの女性――エヌエー。


彼女が並んでいるテントの一つに入ると、そこには深い青い軍服姿の少女――アン·テネシーグレッチがいた。


アンはふるえながら簡易かんいベットの上で横になっている。


その近くには、電気仕掛でんきじかけの子羊こひつじニコがいる。


ニコは、エヌエーを見てうれしそうにいた。


ニコに笑みを返したエヌエーは、ベットの側にあったつくえにトレイを置き、やさしい声で食事を持ってきたことを伝えた。


だが、アンは毛布もうふかぶった状態じょうたいだまったままだった。


「アン、少しでもいいから食べないと……」


エヌエーは、ふたたおだやかな声を出したが、彼女が食事を取ることはなかった。


その様子を見ていたニコは、ただ鳴くことしかできなかった。


アンはロミー、ニコと共に、ラスグリーンとクリアのった高速飛行船こうそくひこうせんホワイトファルコン号に助けられ、ストリング城を脱出だっしゅつした。


その後、ラスグリーンのあんで、飛行船内にあった通信機器つうしんききを使い、エヌエーに連絡れんらく(連絡先はシックスののこしていたメモに書いてあった)。


そして、彼女たちと合流ごうりゅう――バイオナンバーの野営地で休ませてもらうことになった。


そのときにエヌエー以外の人間――。


彼女の恋人であるブラッドと、この野営地を指揮しきするメディスンも、ラスグリーンやクリア、ロミーと会っていた。


メディスン、ブラッド、エヌエーの三人は、バイオナンバーの兵士である。


そこに、敵対てきたいしているストリング帝国の将軍しょうぐんであるロミーがあらわれたことは大問題だった。


さらに、その帝国の将軍がアンのいもうとであると知った三人は言葉をうしなっていた。


仲間を散々さんざん殺した帝国の少女将軍――。


通称つうしょう義眼ぎがん猛獣もうじゅう”ローズ・テネシーグレッチが目の前にいるのだ。


だが友人であり、組織内の事件を解決かいけつしてくれたアンの妹であるとわかると、手など出せるはずがなかった。


それからすぐに――。


ラスグリーンはアンをあずけると、ロミー、クリアを連れてホワイトファルコン号の出発しゅっぱつ準備じゅんびを始めた。


別れぎわにクリアが、シックスやマナ、そしてキャス、ルーがクロエによってその身体を消されたことを話す。


それから今のクロエは、クロムの身体を乗っ取っていることも伝えた。


三人はシックスの死を聞いて、それぞれちが反応はんのうを見せていた。


エヌエーは両膝りょうひざをついて泣き始め、ブラッドはそんな彼女をささえながら、信じられないと言い続けていた。


メディスンは何も言わずに、ただうつむいていた。


「私はシックスやマナ、キャスに会ったことはありませんでしたが……」


クリアはかなしい声で言葉を続けた。


アンから紹介したい友人がいると言われていたので、楽しみにしていたと。


三人の死んだ理由――仲間を助けるために犠牲ぎせいになったと聞いて、敬意けいいを持ったことを話した。


「私も是非ぜひお顔を合わせたかったです……」


それ以上は何も言わず、クリアは頭を下げてラスグリーンらと共に出発してしまった。


「アン……」


そう名前をつぶやきながら、横になっているアンの姿を心配そうに見つめるエヌエー。


だが、アンは何の言葉も返さなかった。

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