193章

マナとキャスは左右さゆうに分かれ、クロエをかこむように飛びかる。


2人はシックスとはちがい、自分たちからめるように見せ、ルドベキアたちが逃げる時間をかせぐ作戦を考えた。


距離きょりをとって攻撃こうげき仕掛しかけば、少なくともクロエは、こちらの様子ようすを見るため動かなくなるであろうと。


当然圧倒的あっとうてきな力のがあるクロエに、そんな方法ほうほう通用つうようしないことはわかっている。


だが、たとえそれがけ石に水だったとしても、1分でも、いや1秒でも仲間が逃げる時間をと、2人は思っていた。


「マナ!! 同時どうじに行くぞッ!!!」


「うん!! オッケーだよ!!!」


キャスの掛け声と共に、2人は手をクロエへ向けてかざした。


彼女等の手からそれぞれ力――ほのおと水がはなたれる。


左右からはげしい猛炎もうえんくる津波つなみのような水流すいりゅうがクロエへとおそいかかった。


だが、クロエの体からすさまじい旋風せんぷうい始め、2人が放った攻撃は、ストリング城――廊下ろうか天井てんじょうつらぬいて空へとはじき飛ばされてしまった。


当然そうなる――。


マナにもキャスにも、そんなことはわかっている。


自分たちの力が、クロエに通用しないことなどはなから承知しょうちの上だ。


だか、それでも2人は、クロエの気をらすように動き回りながら、手を休めずに攻撃を続けた。


意味いみのないことをするなぁ。さっき奴と同じだよ」


マナとキャスの必死ひっし猛攻もうこうを見て、そばにいるグラビティシャド―があきれていた。


ちゅう土台どだいの上で胡座あぐらをかくその姿は、勝てない相手に何故そんな無駄むだ抵抗ていこうをするのだろうと、理解りかいくるしんでいるようにも見える。


「ママのほうもあそびすぎだよ」


グラビティシャドーが、やる気のない声でクロエに言った。


すると、攻撃を続けていたマナとキャスのいた地面じめんから、先端せんたんとがったやりのような土のかたまりが飛び出してくる。


2人はなんとかこれをけたが、そのせいでクロエに向かって放っていた炎と水が止まってしまった。


「あらあら、ストップしっちゃったわね。それじゃダメよ」


クロエが妖艶ようえん微笑ほほえみそう言うと、キャスの右腕みぎうでね飛ばされた。


そして、いつのにかキャスの目の前にいるクロエ。


だが、キャスは悲鳴ひめいをあげることなく、のこされた左腕でピックアップブレードをにぎって斬りかかる。


クロエの頭から上半身じょうはんしんまでが、ブレードの光のやいばによってぷたつに切りかれた。


素晴すばらしいわ、キャス。私ののう心臓しんぞうねらったのね」


だか、切り裂かれて顔が半分になったクロエは、うれしそうに笑うと、キャスのむねに向かってその腕でき立てた。


クロエの腕に串刺くしざしにされたキャスは、血をき出すと、その覇気はきちていた表情ひょうじょうから生気せいきけ、手足は力をうしない、ぐったりとしていく。


すでに体が元通りに再生したクロエは、憔悴しょうすいしきった瀕死ひんしのキャスをきしめ、彼女のほほしたわせていく。


「あなたは私が作ったキメラの中で1番うつくしいわ」


うっとりと、まるで極上ごくじょう美酒びしゅったかのように、クロエはキャスに口へ自分のくちびるかさねた。


次に、クロエは彼女の頭にらいつく。


そして、美しかったキャスの顔が、あふれる血でまった。


キャスあなたも私の中で生き続けなさい」


クロエは口のまわりを血だらけにしながらそう言うと、口にくわえた水晶クリスタルを飲み込み、恍惚こうこつの表情となってその身をふるわせている。


「うわぁぁぁッ!!!」


そのすきを狙っていたわけではないだろうが、一瞬いっしゅん間合まあいをめたマナが、クロエの顔面がんめんへ炎をまとったこぶしたたきつけた。


だが――。


「あなたの相手は後でちゃんとしてあげるから、そんなにガッつかないの」


まったくダメージのない、いやどうじてさえいないクロエ。


だが、それでもマナはひるまずに、える拳をぶつけていく。


キャスをはなせとさけびながら何度も何度も。


すると、マナの体が突然地面に押し付けられた。


「ママ、もういいでしょ? さっさと逃げた奴らもころして終わりにしようよ」


そう言ったグラビティシャド―は手を翳していた。


自身じしんの持つ力――重力じゅうりょくあやつる能力で、マナの体を地面にいつくばらせたのだ。


クロエは残念ざんねんそうな顔をグラビティシャド―へと向けた。


そして、マナを解放かいほうするようにげると、抱いていたキャスの体を放り出す。


グラビティシャド―は、渋々しぶしぶといった感じで翳していた手を下げた。


重力から解放されたマナは、放り出されたキャスを抱きこした。


「大丈夫だよ、キャス。あたしがすぐになおしてあげるからね」


マナはおだやかな笑みを浮かべながら、キャスにかたり掛けた。


だが、キャスが返事をすることはなく、その目にはもう光は残されていなかった。


「ねえ、マナ。合成種キメラと人間とのあいだに生まれたあなたは、一体どんな味がするのかしら?」


そして、ゆっくりとクロエがマナの元へ近づいて来ていた。


……兄さん……ラスグリーン兄さん。


ごめんなさい……あたし……せっかく兄さんが傍にいるって感じられたのに……。


……兄さんに会う前にここで……。


マナの思考しこうを読んだのか、クロエはやすらぎにちた顔を向ける。


そして、そっと手を差し伸べた。


「マナ……可愛かわいい子……。大丈夫、あなたも私の中で生き続けるのよ」


クロエに見つめられたマナは、目が見開いたキャスを抱いたまま、その場で動けなくなっていた。

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