192章

シックスのときとはちがい、ルドベキアはキャスの姿を見ることなく走りっていく。


ならんで走っていたマナは、彼がを食いしばっている顔を見ていた。


仲間の中で、最初さいしょにクロエから逃げることを選択せんたくしたルドベキアではあったが、くやしくないはずがなかった。


何故ならば、この男は雪の大陸たいりくにあったガーベラドームのわかくして王となった男なのだ。


当然プライドも高く、力だけがルールであるガーベラドームのあらくれ者たちをまとめる彼が、余程よほどの理由がないかぎ敵前逃亡てきぜんとうぼうをすることはない。


だが、それ以上にマナには、彼が仲間をいて逃げるという自分に、はげしくいきどおっていることが伝わってきていた。


……ちくしょう。


本当にこれでいいのか?


クロエに勝てなくても、全員で死ぬ覚悟かくごいどむほうが正解せいかいだったんじゃねえのか……?


ルドベキアは、口から血を流しながらうつむいていた。


彼にかかえられているニコが、そんな姿を見て小さくいている。


「……ルド。あたしものこる……アンとロミ―、ニコをよろしくね」


突然立ち止まり、キャスのほうをり返ったマナが、ルドベキアへと言った。


そんな彼女の行動こうどうに、ルドベキアも思わず立ち止まってしまう。


「てめえまで何言ってんだ!?」


表情ひょうじょうゆがめ、ルドベキアが怒鳴どなりあげると、反対にマナはおだやかな笑み返す。


「あなたが1番悔しいって……わかるよ。ルドってさ、口は悪いし、人をおどすような口のき方だし、自分を強く見せたくってしょうがない人だもんね」


「こんなときになんだよ!! 俺に文句もんくがあんなら後にしやがれ!!!」


「でも、そんなあなたが逃げることをえらんだ……。それは……みんなが死なない方法ほうほうを考えた結果けっかなんだよね」


微笑ほほえみながら言葉を続けるマナ。


ルドベキアは大声で怒鳴ってやりたかったが、何も言うことができなかった。


「シックスもキャスもそうだよ。なら、あたしも……あたしがやりたいことをやる。だから……行って……」


そう言ったマナは、全身にほのおまとわせると、キャスが立ち止まった場所へと向かっていった。


「どいつもこいつも……ああッ!! ふざけんじゃねえよ!!!」


残されたルドベキアは、大声で叫び、再び前を向き、高速こうそく飛行船ひこうせん目指めざして走り出した。


かなしそうに鳴くニコと、気をうしったアンとロミ―をかついだまま。


――ピックアップブレードの光のやいばを出して、それをかまえているキャス。


そんな彼女のとなりへ、体から炎を噴出ふんしゅつさせて飛んできたマナが並んだ。


「いいのかマナ? おそらくもう生きては帰れないぞ」


「ずいぶんと弱気よわきなこと言っちゃって。らしくないんじゃなの、キャス」


マナはいつものハツラツとした笑顔を見せた。


そんな彼女を見ておどろいたキャスだったが、大きくため息をつくと笑みをかべた。


「そうだな。私らしくなかった。だが……お前はさがしている人がいると……」


キャスが話している途中とちゅうで、マナは手を伸ばしてその言葉をさえぎった。


そして、キャスの目を見つめて言う。


「捜していた人……見つかったよ。さっきからずっと声が聞こえているから……」


マナの言葉を聞いたキャスは、そのことについてもう何も言わなかった。


ただ、2人ともたがいに見つめ合うだけだ。


「……来たか」


キャスがそう言うと、2人へ突風とっぷうきつける。


そして、突然大きな竜巻たつまきが現れた。


「こ、これってシックスのッ!?」


「ああ、クロムと同じように奴に取り込まれたんだな……。さっさと姿を見せろ!!! お前にシックスの力は似合にあわない!!!」


激しく吹いていた強風がおさまり、竜巻の中から人の姿が見せ始める。


「あら、次はあなたたちなの?」


それは、全身から風を起こしてちゅういているクロエであった。

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