191章

勝負しょうぶ一瞬いっしゅんわった。


ルドベキアたちが高速こうそく飛行船ひこうせんまで行く時間をかせごうと、ちゅう身構みがまえ、まもりをかためたシックスだったが、クロエがかざさした手からはなたれた光の波動はどうに、むねかれてしまう。


シックスの巨体きょたい地面じめんにゆっくりと落下らっかしていき、やがてドスンと大きな音を立てた。


「……バカなやつ。全員でかかっても勝てなかったのに、一人でママの相手ができるわけないじゃないか」


敗北はいぼくしたシックスの姿を見たグラビティシャド―が、そうポツリと言い、ややかな眼差まなざしを向けていた。


クロエは、たおれたシックスのもとへと近寄ちかよっていく。


そして、もう動けない彼の体を持ち上げ、無理矢理むりやりこした。


すでに虫のいきであるシックスを見つめながら、クロエはおだやかに微笑ほほえんでみせる。


「ねえ、シックス。何かママに言いたいことはある?」


クロエにたずねられたシックスは、くるしみながらも笑みを返した。


「ひとつ……クロエお前感謝かんしゃしていることがある」


「あら! 何かしら?」


はずんだ声を出すクロエ。


シックスは血反吐ちへどくと、彼女の顔をじっと見つめた。


「この風をあやつる力……この力のおかげで今まで多くの仲間なかま……反帝国組織バイオ·ナンバー……家族を助けることができた……そして、今も……あいつらを……」


シックスの言葉を聞いたクロエは、大きくため息をついた。


彼女はあきらかにあきれている。


その態度たいどは、後悔こうかいなくやりきった男へ向けるにはあまりに無作法ぶさほういであった。


「もう死んでしまうみたいなことを言っているけど。あなたは死なないわ。だって、私の中で生き続けるのだから」


クロエはそう言うと、手をばしてシックスの頭へっ込んだ。


赤い血がこわれた蛇口じゃぐちから出る水のようにき出し、シックスはあまりの苦痛くつう絶叫ぜっきょうする。


「ぐわぁぁぁッ!!!」


「男の子は泣かないわめかない」


クロエは、ハミングしながらシックスの頭の中をき出していく。


その頭からは、脳味噌のうみそ断片だんぺんが、ボロボロと落ち始めていた。


そして、何かをつかんだのか、クロエはシックスの頭から手をくと、彼の巨体をポイっとてる。


まるで中身を取ったプレゼントのはこを捨てるかのように。


「ふふぅ~ん、これこれ」


クロエがシックスの頭から取ったもの――。


それは、まばゆかがやいている小さな水晶クリスタル欠片かけらだった。


その欠片は、血でまってはいるが、おだやかな光をはなっていた。


「さあ、これであなたも私と永遠とわに……」


そうつぶやいたクロエは、水晶クリスタルの欠片を見つめ、自分のしたわすとつややかに付いた血をめとっていく。


そして、その綺麗きれいになった水晶クリスタルを、自分の頭にゆびを突っ込んで開けたあなへとじ込んだ。


「ああ、いい……。彼が私の中に入って来るぅ……」


こめかみから流れる自分の血を舌ですくいながら、恍惚こうこつ表情ひょうじょうで身をじらせるクロエ。


「あなたも感じて……私のいのちを……ねえ、くるってしまうほどみゃく打っているのがわかるでしょ?」


そうかたけ続けるクロエのまわりには、彼女をつつむように風がき起こり始めていた。


――飛行船へ向かうルドベキアたち。


シックスの反応はんのうが消えたことに、マナとキャスは気が付いていた。


それは、自我じがのある合成種キメラとマシーナリーウイルスの適合者てきごうしゃだけが持つ力――。


Personal link(パーソナルリンク)――通称つうしょうP-LINKによって、たとえはなれていても彼のこと感じていたからだった。


走りながらなみだを流すマナを見たキャスは、突然立ち止まる。


「お前たちは先へ行け……次は私のばんだ」


そう言ったキャスは、気丈きじょうに振る舞っているように見えるが、その体はふるえていた。

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