186章

ストリング城内を1人の男が走っていた。


城の回廊かいろうたおれていたストリング帝国の将軍ノピア·ラシックだ。


彼は暴走ぼうそうしたアンにき飛ばされ、肋骨ろっこつ重傷じゅうしょうい、そのまま気をうしなってしまっていた。


そんなノピアを、ストリング城内にある医療施設いりょうしせつへとはこんだのが、おさな双子ふたご――ジャズ、ジャガーのスクワイア姉弟きょうだいだった。


ノピアは、スクワイア姉弟のおかげで一命いちめいは取りめたのだが、彼が気がついたのはアンたちが戦闘せんとう開始かいししてからだ。


そのため、ともかく状況じょうきょうがつかめないノピアは、衝撃音しょうげきおんがするほうへと向かっていたのだった。


「くッ!? さっきから不愉快ふゆかい感覚かんかくが止まらん。しかも……1人2人という話ではない……一体何がきている?」


右手で頭をかかえながら、周囲しゅういから感じるものをわずらわしく思うノピア。


彼もアンやロミーと同じマシーナリーウイルスの適合者てきごうしゃだ。


アンとロミーとちがいがあるとすれば、ノピアは研究けんきゅう結果けっかからウイルスに侵食しんしょくされずに(全身が機械に変わらず、自我じがたもてる状態じょうたい)すんでいる――いわば、人工的じんこうてき適合者てきごうしゃである。


だが、それでもアンやロミー、そしてマナやキャス、シックス、クロム――自我のある合成種キメラと同じように、Personal link(パーソナルリンク)――通称つうしょうP-LINK――相手の心の中が見える能力を持っている。


ノピアは走りながら考えていた。


城内から多くの焦燥感しょうそうかんを彼を感じる中、1つ――いや、2つだけ大きく不快感ふかいかんを感じるものがあった。


……この感じ。


まだアン·テネシーグレッチがあばれている可能性かのうせいがあるかもしれない。


だが、そうなるともう1つの反応はんのうは誰だ?


まさか、事態じたいはもっと取り返しがつかない状況じょうきょうなのか……。


暴走したアンに、自分ではが立たないとわかっていても――。


たとえ、それ以上の相手がこの先にいるとしても――。


ノピアは足を止めることができない。


それは、彼をかばって死んだリンベース·ケンバッカ―近衛このえ兵長との約束やくそくだったからだ。


……リンベース。


俺のことを買いかぶっていたバカな女……。


お前は俺のどこを見て世界をすくう男だと思ったんだ?


本当にバカなやつだよ……。


だが……こんな俺だが、お前の評価ひょうかに少しでも近い男になってみせるさ。


そして、ストリング城の廊下ろうかに出たノピア。


そこではすさまじい戦闘がおこなわれていた。


「あれは皇帝閣下かっか!? それと……もう1人シープ·グレイかッ!?」


ストリング皇帝はグレイへ、かがやく2本のピックアップブレードを激しく打ち込んでいる。


それはまるで今は無き宗教しゅうきょう――。


仏教ぶっきょうにおける信仰対象しんこうたいしょうである千手観音菩薩せんじゅかんのんぼさつのように、ストリング皇帝の体から千手が見えるようだった。


だがグレイは、こわれた散弾銃ショットガン――パンコア·ジャックハンマーを持って、すべてさばいている。


めているのはストリング皇帝だが、余裕よゆうがありそうなのはグレイだ。


そう思ったノピアは、当然皇帝に加勢かせいしようと、廊下のかべに立てかけてあった金属きんぞくの剣を手に取った。


……何故皇帝閣下とシープ·グレイが戦っている?


それにシープ·グレイは皇帝閣下とり合えるほど強かったのか?


ノピアがそう思いながら、ストリング皇帝に手を貸そうとしたとき――。


「ノピア将軍、お目覚めざめだね」


そのグレイがはなった言葉と同時に、先ほど感じた不快感が一層いっそうふかまった。


だが、みずからをふるい立たせたノピアはグレイへと向かっていく。


「シープ·グレイ!! こんなことで私は止められんぞ!!!」


そうさけび、斬りかかったノピアだったが――。


彼の目の前に突如とつじょ現れた灰色はいいろ空間くうかんが、ストリング皇帝の胴体どうたいを飲み込み、その体をバラバラにしてしまった。

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