185章

グレイのった弾丸だんがんかたあなを開けられたストリング皇帝は、その傷口きずぐちれて驚愕きょうがくしていた。


かたつめたい金属きんぞく感触かんしょく


まさかグレイが今言った通り、自分の体が機械きかいでできた人造人間アンドロイドだったとは思ってもみなかったからだ。


「私が機械だっただとッ!? そんなバカな話があるか!?」


はげしく取りみだしたストリング皇帝は、にぎった2本のピックアップブレードをり回してりかかる。


その姿は、王として人々をたばね、そしてさからうてき蹂躙じゅうりんしてきた彼とは思えないものだった。


グレイは灰色はいいろ空間くうかんを開き、いとも簡単かんたんにその攻撃こうげきけていく。


「こんな、こんなことがあってたまるか。私はおさなころから英才教育えいさいきょういくを受け、武芸ぶげいまなび、そして王となった。それは、それが私の宿命しゅくめいであり使命しめいだからだ!! この荒廃こうはいした世界を理想郷ユートピアに変えるため、誰もが不安ふあんなくらしていけるために、私は生きているのだ!!! そんな私が人造人間アンドロイドだっただと!?」


言葉数と共に、次第しだいに激しさもしていくストリング皇帝の連撃れんげき


だが、そのすさまじいまでの斬撃ざんげきがグレイに当たることはなかった。


「まるでジョージ·オーウェルの書いた小説に出てくる悪役あくやくが、フィリップ·K·ディックの話にすり替わってしまったみたいだな。レコーディ·ストリング……お前は優秀ゆうしゅうぎたんだよ。まあ、俺がそういうふうに作ったんだけど」


グレイはヘラヘラとそう言うと、話を続けた。


ストリング帝国が建設けんせつされた理由わけを――。


グレイは、ルーザーによってその体をうしったコンピュータークロエに、ある進言しんげんをした。


人類じんるいにもう一度だけチャンスをあたえてもいいのではないかと。


クロエは、興味きょうみぶかそうに彼の話を聞いたそうだ。


「いいでしょう、私のひつじ――シープ·グレイよ。この終末の後の世界ポストアポカリプスで、人々が間違まちがいをおかさず、正しくこのほし恩恵おんけいと生きる者すべての生命せいめい感謝かんしゃできたのなら、私は永遠えいえんねむることにしましょう。だけど、人類はかならず私を眠らせてはくれないわ」


母――クロエの許可きょかたグレイがまず考えたのは、絶対的ぜったいてき指導者しどうしゃを人類に与えることだった。


人々をみちびき、さらにもとめるものと必要なものを理解りかいし、誰よりも能力のうりょくの高い人類の王を。


その作られた人造人間アンドロイド――指導者こそがレコーディー·ストリングだった。


だが、グレイが作った人造人間アンドロイドは、ただの指導者ではなかった。


彼が作った人造人間アンドロイド――ストリング皇帝は、人々ののぞむまま成長していくようにプログラミングされていた。


その結果――。


ストリング帝国は世界中を蹂躙し、それにとなえる者たちが結成けっせいした反帝国組織はんていこくそしきが、世界中で台頭たいとうすることとなる。


そこから人間同士のあらそいが始まった。


戦局せんきょくはストリング帝国の圧倒的あっとうてき優位ゆういではあったが、当然それでも犠牲者ぎせいしゃは出る。


その犠牲者を失くすため、人類の希望きぼう体現たいげんするストリング皇帝は、人間を機械へと変える細菌さいきん――マシーナリーウイルスを開発かいはつ


それから世界中にあった反帝国組織は、バイオ·ナンバーとしてまとまり、さらに人間同士の戦争は激しいものとなっていった。


いまだに世界は、合成種キメラという脅威から逃れていないというのに。


そして、結局けっきょく――。


すべてはクロエの思う通りの結果けっかとなってしまった。


「すべてはクロエや貴様きさまてのひらの上だったというわけか……」


そうつぶやいたストリング皇帝は、うつむいたかと思うと急に顔を上げた。


そして、再びピックアップブレードをで斬りかかったが、グレイはまた空間を開いて移動いどうし、当然けられてしまう。


「貴様の話はよくわかった。ならば、ここからが私の本当の人生だ。そうは思わんかね?」


空間の中に消えたグレイが、再び現れた瞬間しゅんかん――。


ストリング皇帝は一瞬いっしゅん間合まあいをめて斬りかかる。


戸惑とまどうグレイは散弾銃ショットガン――パンコア·ジャックハンマーでブレードをふせいだ。


だが、パンコア·ジャックハンマーはその攻撃で破損はそんしてしまい、もう弾丸を撃つことは不可能ふかのうになってしまった。


「……どうして出てくる位置がわかった?」


グレイがそう訊くと、ストリング皇帝は余裕よゆうの笑みをかべた。


「さあな。君が私をそう作ったからじゃないかね?」

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