187章

ノピアの目の前でバラバラとなったストリング皇帝。


その四散しさんしたうでや足を見て、ノピアは驚愕きょうがくした。


何故ならば、ストリング皇帝の体はすべて機械でできていたからだった。


つなぎ目から見えるメタリックな金属きんぞくの部分。


それらからは電気の音がビリビリと立てられている。


「皇帝閣下かっか……こ、これはマシーナリーウイルスの……?」


ノピアは一瞬いっしゅんだけそう考えたが、すぐにちがうことに気がついた。


それはマシーナリーウイルスによって機械化しても、体内たいないながれる体液たいえき――血は人間と同じく赤いはずだったからだ。


ノピアは、バラバラなってしまったストリング皇帝がころがっているところへとった。


そばに居るグレイに警戒けいかいしながら、首だけとなった皇帝へと声をかける。


「皇帝閣下、ストリング皇帝閣下!! ノピアです!!! ノピア·ラシックです!!!」


ノピアは半壊はんかいしたストリング城の廊下ろうかかべかざられていた剣を手ににぎりながら、首だけとなったストリング皇帝へ片膝かたひざをついて拝謁はいえつ


だが、その声と態度はとても荒々あらあらしいものだった。


普段ふだんストリング皇帝の前で、物腰ものごし慇懃いんぎんでものないノピアだったが、その態度たいどを見れば、彼がバッカス将軍や他の帝国将校しょうこうのように皇帝へ忠誠ちゅうせいちかっていたことをあらためて思わせる。


グレイはそんなノピアの姿を見ながら、クスッと笑みをかべた。


それを横目で見たノピアは、表情ひょうじょう強張こわばらせて立ち上がる。


「何を笑っている?」


ノピアはしずかながら威圧的いあつてきな態度でグレイに声をかけた。


グレイは何も言わずに、おどけた調子ちょうしで彼へうすら笑いを見せるだけだった。


「だから……何を笑っているんだッ!!!」


そんなグレイ様子ようすえられなくなったノピアは、持っていた剣で斬りかかった。


だが、グレイはちゅう灰色はいいろ空間くうかんを作り、その中へと消えてしまう。


消えたグレイに用心ようじんし、周囲しゅうい見渡みわたしたノピアだったが、彼があらわれる様子はない。


しばらくすると、ノピアの頭の中に不快感ふかいかんと共に声が聞こえてきた。


「ノピア将軍……君は使えるかもしれないな。いざというときのためにかしておくか」


どこからか聞こえてくるグレイの声。


ノピアはその言葉の意味がわからないまま、頭の中に流れてくる不快感をはらうため、さけぶと、彼の脳内のうないに、現在げんざい――このストリング城での状況じょうきょうが、映像えいぞうとなってうつし出されていった。


空へと浮かんでいくストリング城――。


アン、マナ、キャス、シックス、クロム、ロミーの姿――。


飛行船で侵入しんにゅうしてきたクリアとルドベキア、ニコとルー。


目の前でバラバラとなっているストリング皇帝が、機械兵オートマタをひきいている様子――。


そして、ノピアが感じていた取り分け大きい不快感の正体――コンピュータークロエと、傍に立っているグレイとグラビティシャド―2人――。


「な、なんということだ……このストリング城自体じたいがコンピュータークロエだったのか……。それと……ストリング皇帝閣下がシープ·グレイの作った人造人間アンドロイドだったなんて……」


脳内に流れ込んできた映像を見たノピア。


あまりの衝撃しょうげき事実じじつにその場に立ちくしていると――。


「ノ、ノピア将軍……そこにいるのか……?」


首だけとなったストリング皇帝が声をかけてきた。


ノピアはすぐに皇帝へと駆け寄る。


くるしそうにうめくストリング皇帝。


ノピアは、皇帝の最後さいごとなるであろう言葉を聞いていた。


「ど、どうやら私はここまでのようだ……後を……たのむぞ」


「な、何をおっしゃるのです!! 皇帝閣下がいなければ……世界はッ!!」


「君がやるのだ……。私に変わってこの終末の後の世界ポストアポカリプス理想郷ユートピアにしてくれ。君はマシーナリーウイルスの“適合者てきごうしゃ”であり、ただの将校しょうこうでは終わってはならん男だ……わかるか……ノピア·ラシック……私を失望しつぼうさせんでくれ……」


ノピアは、そのストリング皇帝の言葉になみだたたえた。


そして、完全に動かなくなった皇帝の側にあった、なピックアップブレードを握るのであった。

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