177章

ロミーの目の前で消されていくルー。


その体をおおいつくしているゆたかな黒い毛を一切いっさいのこすことなく、クロエのはなつ光につつまれていった。


小細工こざいくろうするわね。まさかルーザーのアイデア? それとも誰か別の人かしら?」


クロエはルーを消滅しょうめつさせると、少し考えてから、グラビティシャド―の能力によって重力をかけられているアンの姿を見た。


アンは、ゆかに体がめり込むほどめ込まれていたが、その目はクロエをじっとにらみつけている。


それからクロエは、次にルーと同じ姿をしている電気仕掛でんきじかけの子羊こひつじ――ニコへと目を向ける。


ニコは、人の形をしたエネルギー体であるクロエに見られ、ルーが消えてしまった悲しみと恐怖きょうふを感じ、その身をビクビクとさせていた。


「これはちょっと不味まずいわね」


クロエは考えていた。


ロミーの体にデータを移行いこうすることができなかった理由――。


それが、先ほど消滅させた黒いほうの子羊にあったのなら、当然白いほうの子羊を連れているアンの体もっ取ることは不可能ふかのうであろうと。


まだ憶測おくそくいきは出ていないが、クロエはアンの体に手を出すのをやめる。


「とりあえず一度システムにもどるか」


人の形をしたエネルギー体――クロエは、クロムによって引き千切ちぎられた配線はいせんつかんだ。


そして、それを自分の体にし込む。


だが、クロエの思うようにはいかず、配線からシステムへと戻ることはできなかった。


どうやらルーが発動はつどうさせたものは、ロミーの体を守るだけではなく、クロエ自体じたいに何かしらの機能停止きのうていしいるものだったようだ。


「あらあら、このままじゃ私、さっきの黒羊と同じように消えちゃうわね」


だが、それでもクロエにあわてた様子ようすは見られない。


まるで他人事たにんごとのように、今の体ではデータを維持いじできないとクスクス笑っている。


「よ、よくもルーを……こ、ころしてやる……お前は優先ゆうせんさい優先で殺すッ!!!」


意識いしきを取り戻したロミーが、こしびていた短刀たんとう――カトラスをにぎって、クロエのへと斬りかかった。


ロミーのその顔は、ルーをうしったかなしみのなみだでグチャグチャになっていたが、それ以上にクロエへの殺意さついの色にまっている。


義眼ぎがんはげしく点滅てんめつし、殺す、殺す、殺すと、今の彼女の頭の中は、その文字もじくされていた。


「しょうがない……ホントにしょうがないなぁ」


ルドベキアに立ちふさがっていたグラビティシャド―。


彼はつぶやくように言うと、アンへ向けていた右手をロミーほうへと動かす。


すると、今度はロミーの体に重力がし掛かってきた。


ロミーはクロエの目の前で、ゆかに深くめ込まれていく。


「もう少しだったけど、残念ざんねんね」


クロエが、ロミーのいつくばっている姿を見ながら、勝ちほこった顔を向けていた。


だが――。


「……いや、残念なのはお前のほうだ」


女の声が聞こえたと思ったら、雷鳴らいめいひびき、クロエへ稲妻いなづまおそい掛かった。


人の形をしたエネルギー体を、はげしく放出ほうしゅつされた電撃でんげきつつむ。


機械のうでかざしたアンが、大きく咆哮ほうこう


その声を聞き、くるしんでいたマナ、キャス、シックス、ルドベキア、クロム5人が笑みをかべる。


そして、ふるえていたニコがよろこびのき声をあげた。


「さあ、反撃開始はんげきかいしだ!!!」

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