176章

ロミーをささえながら立たせたクロエは、彼女の頭を両手でしっかりとつかむ。


かがやくエネルギー体と姿を変えたクロエは、クスクス笑い、気をうしっているロミーを見ながら時折ときおり恍惚こうこつの声をらしていた。


「くッ!? ロ、ローズ……」


グラビティシャド―の重力をあやつる能力によってゆかに押し付けられたままのアンは、ただその様子を見てうめくことしかできなかった。


マナ、キャス、シックス3人も、体内であばれる遺伝子いでんし細胞さいぼうにはさからえず、アンと同じように見ていることしかできない。


クロムは全身の血管けっかん破裂はれつし、血塗ちまみれになってたおれてしまっている。


今この大広間で自由なのはルドベキア、ニコ、ルー。


だが――。


「クソッたれが!! そこを退きやがれッ!!!」


とおせんぼ……ママの邪魔じゃまはさせない」


ルドベキアの前にはグラビティシャド―に立ちふさがり、ロミーのところまで辿たどけそうになかった。


ニコはマナ、キャス、シックスのそばふるえているだけ。


ルーは、人のかたちをしたエネルギー体――クロエへと飛びかったが、かるはらわれてしまう。


「新しい肉体ボディへデータを移行いこうするわ。さあ、私を受け入れなさい」


クロエがそう言った瞬間しゅんかん――。


突然、ルーの体が発光はっこうし出した。


そして、それと同時にロミーの体も同じように光をはなつ。


その光は、彼女の頭を掴んでいたクロエの両手をはじき、さらに輝き始める。


「こ、これは私を拒絶きょぜつしている? 何故、何故なの? グレイの調しらべで、私のデータとは拒否反応きょひはんのうを起こさないはずなのにッ!?」


クロエ――人の形をしたかがやくエネルギー体は、表情ではわかりにくいが、そのデジタル処理しょりされたような声を聞くに、おどきをかくせないようだった。


《ロミー、ロミー……》


気をうしっているロミーに声が聞こえる。


「……だれだ? あたしを呼ぶのは……?」


《ロミー、動け……さあ、動くんだ。じゃないと……お前は……》


「わかっている。コンピュータークロエがあたしの体をっ取ろうとしているんだろう……。でも、無理……無理なんだ……」


気を失っていたロミーだったが、今自分が何をされそうになっているのかは把握はあくしていた。


だが、体が思うように動かない。


もうロミーは、自分には何もできないとあきらめていた。


《大丈夫、大丈夫だ。おれはこのために作られたんだぜ。ロミーの体をあいつのモノなんかにさせない》


「お前は……誰なんだ……?」


ロミーがふたたたずねると、声の主はクスッと笑ってからき声をあげた。


この鳴き声――。


ロミーはよく知っていた。


グレイに連れられ、ガーベラドームのあった雪の大陸でプラムの家に住むことになってからずっと聞いていた声だ。


「もしかして、ルー……なのか?」


ロミーのいに、ルーはニヒヒと笑って返す。


それからルーは話を始めた。


この電気仕掛でんきじかけの体は、ロミーの体に侵入しんにゅうするものから守るために作られたのだと――。


この日までずっと出番でばんを待っていたのだと――。


それを聞いたロミーはさけぶような大声をあげた。


ちがう、ルーはそんな道具どうぐでも機械でもない。


つねに、ずっと、いつも一緒にいてくれる親友であり家族だと怒鳴どなりあげた。


「お前は違うのか!? たしかにあたしのワガママに付き合わせてばかりいたけど、お前もあたしと同じだろ!? お前もそう思っているんだろ!? なあルー!! こたえろよッ!!!」


《ロミー……》


ロミーとルーの間に沈黙ちんもくが流れた。


それは、彼女にとって気が遠くなるほど長く感じられた。


何も答えてはくれないルー。


だが、しばらくすると子羊は、いきなり大笑いをし始めた。


ロミーは、そんなルーに何度も呼び掛けるが、電気仕掛けの子羊は笑うことを止めなかった。


そして笑いくすと――。


《ハハハ……ありがとな、ロミー》


「なんだよその言い方は……? 笑ってないでさっきの質問しつもんに答えろよ、ルーッ!!!」


《みんなと仲良くやれよ。特にアンはお前の姉ちゃんなんだからさ》


「そんなまるでサヨナラみたいなことを言うなッ!!!」


「じゃあな、ロミー。おれ……お前と一緒にいれて楽しかったぜ……」


「ルー、ルーッ!!! いくな!! いかないでくれぇぇぇッ!!!」


ロミーがそうさけぶと、黒いゆたかな毛でおおわれた子羊こひつじルーの姿は消えていった。


彼女は意識いしきを取りもどし、そして目の前には――。


「この子のせいね。まったく手の込んだことをしてくれちゃって」


人の形をしたエネルギー体――クロエが、ルーの体を消滅しょうめつさせた光景こうけいだった。

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