175章

体が動くことを拒絶きょぜつしている。


だが、それでもクロムはちゅうらわれているロミーを助け出そうとしていた。


「クロム!? バカ野郎!! 無茶むちゃすんじゃね!!!」


ルドベキアには、何故クロムがそんな状態じょうたいになっているのかがわからなかったが、そのすさまじい形相ぎょうそう血塗ちまみれの顔をしている彼を見て、まらず怒鳴どなりあげた。


クロムは、マナ、キャス、シックスと同じく自我じがのある合成種キメラである。


したがって、その体内にある細胞さいぼう遺伝子いでんしが、みの親であるクロエにさからうなと言い、彼の行動こうどう阻止そししようとあばれているのだ。


だが、それでもクロムはひるまずに、体を制御コントロールしていた。


「ああ、愛……愛なのね。やはりあなたが1番私にているわ。うれしい……とても嬉しい」


壮絶そうぜつ苦痛くつうえ、自分の意思いしを押さえ込もうとする体に逆らうクロムを見たクロエは、恍惚こうこつの声をらした。


「うおぁぁぁッ!!!」


クロムは、にぎっていた大人の背丈せたけをもえるハンマーをり、ロミーの体を拘束こうそくしている配線はいせんく。


やがて自由のとなったロミーが、しばり付けられていた大広間の天井てんじょうから落ち、クロムによって抱きかかえられた。


「ロミー……無事でよかった」


顔中に血管けっかんき上がった状態じょうたいのクロムは、まだまだいたみをあじわいながらもロミーを助け出せたことに安堵あんどの表情を浮かべている。


そこへ、電気仕掛でんきじかけの黒子羊こひつじルーも、きながら飛びついてきた。


ロミーはまだ気をうしなったままだったが、クロムとルーは彼女を取りもどせたことだけでもうれしくて仕方しかたがなかった。


「これはマズイ……」


それをルドベキアの攻撃をけながら、横目で見ていたグラビティシャド―がボソッとつぶやくと、大広間にいる者――全員の頭の中にクロエの声がひびく。


少々しょうしょう強引ごういんになっちゃうけど、データの移行いこうはまだ終わっていないわ」


すると、クロムによって引き千切ちぎられた配線から光がかがやきだし、やがてその光は何かのかたちとなってあらわれた。


その光――いや、エネルギー体といったほうがいいのか、ともかくそれは人間の形をしていた。


「ママ……無茶をするね」


現れた光を見たグラビティシャド―がボソッと呟いた。


その人の形をしたものは、全身がまばゆく輝いている光そのものであり、そしてとてつもなく力強さを感じさせるエネルギー体そのものであった。


「この姿は長く維持いじできないけど、な~に、すぐに終わらせればいいわ」


エネルギー体から聞こえるデジタル処理しょりされたような女の声――。


その響きは、間違まちがいない、先ほどから頭の中に聞こえていたクロエの声と同じだった。


「うがぁぁぁッ!!!」


人の形をしたエネルギー体――クロエが、ロミーを抱くクロムに近づくと、彼の体はさらに悲鳴ひめいをあげた。


顔だけではなく、全身の血管が浮き出始め、それが破裂はれつ


そばにいたルーは、彼にれながら鳴くことしかできない。


クロエは、ロミーをクロムとルーからうばい、彼女の体をささえながら立たせた。


「さあ、始めましょうか」


そう言ったエネルギー体ことクロエは、まるで微笑ほほえんでいる表情をしているようだった。

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