174章

クリアがラスグリーンと共に、ストリング皇帝と対峙たいじしていたとき――。


ニコとルーと一緒に進んでいたルドベキアは、大広間の近くまで来ていた。


「たしかこのへんだったよなッ!?」


大声でさけぶルドベキアに向かって、かたかつがれていた2匹の電気仕掛でんきじかけけの子羊こひつじき返す。


ストリング城の廊下ろうかを走り続け、ようやく大広間のとびらを見つけると、彼は扉をやぶって中へと入った。


大広間に入ったルドベキアは、ゆかたおれているアンと、頭をかかえてうずくまっているマナ、キャス、シックス――。


そして、配線はいせんによってちゅう拘束こうそくされたロミーと、小柄こがらな男――グラビティシャド―を目にした。


「ビンゴ。どうやら間に合ったみてえだなッ!!!」


そう叫んだルドベキアは、グラビティシャド―に飛びかった。


斧槍ふそうハルバードによる、はなたれた弾丸だんがんのようなきだ。


グラビティシャド―は面倒めんどうくさそうにけると、どうでもよさそうに言葉をはっする。


「グレイ、しくじったみたいだ。……ねえママ。こいつ、どうする?」


「何がママだこの野郎ッ!! そんなやつどこにもいねえだろがッ!!!」


グラビティシャド―は避けながらボソボソと言っている言葉を聞きながら、ルドベキアは次の攻撃をり出していた。


右手で柄尻つかじりに近い側をにぎり、左手を前に出してささえるかまえから、左手の中ですべらせながら右手の力で突き出す。


やりあつかう者なら誰もが知っている基本的な刺突しとつ


ルドベキアは、休む間も与えずに連続でそのするどい突きを続ける。


だが、グラビティシャド―はやる気のない顔で、その攻撃を避け続けていた。


「ル、ルド……」


たおれているアンがうめくように、ルドベキアの名を呼んだ。


今の彼女はグラビティシャド―の力――。


重力をあやつる能力によって、体を押さえ付けられていた。


ルドベキアは大広間に入った瞬間しゅんかんに、そのことを理解りかいしたのだろう。


きっと何かしらの力を使って、アンたちを動けなくしているのだと。


「待ってろよ。今すぐこいつをぶっ殺してやるからな」


ルドベキアの猛攻もうこうは続く。


だが、それでも彼のハルバードがグラビティシャド―に当たることはなかった。


グラビティシャド―がルドベキアの攻撃を避け続けていると、突然声が聞こえ始める。


「グラビティシャド―。あなたの力でこの男も押さえつけてやりなさい」


ルドベキアはハルバードを突きながらも、その声に戸惑とまどう。


彼の頭の中にも、クロエの声は聞こえているようだ。


……なんだこの女の声はッ!?


いや、今はそんなことを気にしているひまはねえッ!!!


「おい、ニコ、ルー!! 他の連中をなんとかしてやれ!!!」


ルドベキアが言われ、ニコはマナ、キャス、シックスのところへと向かい、ルーは石のかべに打ち付けられたクロムへ向かって走っていった。


「でも、ママ。オレがこいつに重力をかけると、アン·テネシーグレッチのほうが自由になっちゃうよ」


「それはこまるわね。じゃあ、何か別の方法はないかしら」


「てめえッ!! さっきからだれと話していやがるんだ!!!」


グラビティシャド―と姿の見えない声――クロエの声を聞いてルドベキアが怒鳴どなりあげたが、それでもハルバードは当たらない。


「そうだ! グレイとの約束やくそくやぶることになっちゃうけど、もう始めちゃいましょうか」


クロエの声がそう言うと、ロミーの体にき付いていた配線が動きだし始めた。


それはまるで触手しょくしゅのように、ウネウネと彼女の体へさらにからみついていく。


「これよりデータの移行いこうを始めるわ」


ルドベキアは何のことだがわからないが、横目で見る配線の動きを見て、これは不味まず状況じょうきょうだと感じていた。


あせった彼は、さらに攻撃の速度そくどを上げていったが、やはりグラビティシャド―には当たらない。


「クソッたれが!! 避けてばっかいねえで反撃してきやがれ!!!」


「……安い挑発ちょうはつ


ルドベキアのあおるような言葉を聞いても、グラビティシャド―はただ変わらず、面倒くさそうにかわすだけだった。


そのあいだにもロミーの体や頭、全身へと次々つぎつぎに配線がし込まれていく


「やめろ!!!」


だが、そのとき――。


クロムが立ち上がった。


そのクロムのひたいや顔には、きあがった血管けっかんくされた。


やがてそれが破裂はれつし、血がダムに穴が開いたようにき出している。


壮絶そうぜついたみをえているのがわかるほど、クロムの表情はゆがんでいた。


だが、それでも彼はハンマ―を手に握って、配線だらけとなったロミーへと飛び込んでいった。


「お前なんかにロミーをやるもんかッ!!!」

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