173章

「あ、あなたはッ!?」


あらわれたラスグリ―ンの姿に、クリアは驚愕きょうがくしていた。


ラスグリーンは、そんな彼女に向かって、ニコニコと笑いながら手をっている。


ひさしぶり、とでも言いたそうな顔をして。


何故彼がこんなところに?


しかも自分のことを助けるようなことを言っている。


信用できるのかどうなのか――と、クリアは思っていた。


だがストリング皇帝は、ラスグリ―ンを見ても特に興味きょうみしめさずに、立っているのがやっとのクリアへと斬りかかった。


不意ふいをつかれたかたちとなったが、クリアはなんとか刀をかまえる。


だが、彼女のボロボロの体では、とても皇帝のブレ―ドを受けきれそうにない。


……くっ!? まだ死ぬわけにはッ!?


クリアは殺されると思ったが――。


「こっちを無視むししないでよ」


突然ストリング皇帝がき飛ばされた。


緑と黒がじったスパイラルじょうほのおが、皇帝をクリアから引きはなしたのだ。


「緑と黒の炎……。もしかして君が帝国でうわさになっていた、あの“緑炎りょくえん悪魔あくま”かね?」


だか、着ていた帝国の軍服が焼けげてはいたが、ストリング皇帝にダメージはない。


それからストリング皇帝は、まだ火のがついている上着をぎ捨て、ラスグリーンの前へと歩き出す。


ラスグリ―ンは、皇帝を見ながら自身の右手に緑の炎をまとわせた。


そして、その炎を満身創痍まんしんそういであるクリアの体にはなつ。


クリアは何の反応はんのうもできずに、その全身を翡翠ひすいのようにかがやく炎につつまれてしまった。


ストリング皇帝は、その様子を見てかたほうの眉毛まゆげを上げ、首をかしげた。


「どうしたのかね? その娘を放っておけないのではなかったのか?」


ストリング皇帝の問いに、ラスグリ―ンはニコッと笑みを見せた。


「そうだよ。だからこうした」


ラスグリ―ンがそう返事をすると、緑の炎の中からクリアが現れる。


炎によって全身を焼かれたというのに、その体には火傷やけどの1つもなかった。


それどころか、先ほど小雪リトル·スノ―小鉄リトルスティールに自身のいのちわせたはずの彼女の顔には、ふたた生気せいきもどっている。


クリア本人もそのことにおどろいていた。


きずのこっちゃったけど。それは我慢がまんしてね」


ラスグリーンは、両目を見開いて自分の体を確認かくにんしているクリアに向かい、両手を合わせて、頭を下げている。


おまけにウインクしながら、テヘッとしたも出していた。


「何故私を助けたのですか……?」


クリアは理解りかいできなかった。


この男――ラスグリ―ンとは、アンの関係もあって歯車はぐるの街ホイールウェイで戦った。


たがいに敵意てきいき出しというわけではなかったものの、敵同士、いや少なくとも味方みかたということはないはず――そう彼女は考えていた。


「声が聞こえるんだ」


ラスグリーンは、笑みをかべてそう答えた。


そして、体をストリング皇帝のほうへと向ける。


「声……ですか……?」


「うん。いもうとの声がね。助けてもらったことに理由がほしいなら……う~ん、そうだな~。君はマナの友達、アンの仲間だろ? 妹の友達の仲間だから……って、それが理由じゃあダメかな?」


クリアはラスグリーンの言葉を聞いて、押しだまってしまったが、すぐに表情をキリッさせて、彼のとなりへとならんだ。


「その理由……信用します。それにこの男をたおすには、あなたの力が必要のようですしね」


クリアは、ストリング皇帝をにらみ付け、ピックアップブレードで斬りかれた上半身の着物を脱いで、さらし姿となる。


そして、2本の刀を構え直した。


ラスグリーンも身構え、全身から炎を出す。


その炎は、先ほどのクリアに放ったものとはちがい、緑と黒が混じったはげしい焦熱しょうねつだ。


「ふむ、あやかししたがえるむすめと緑炎の悪魔か。まるで冥界めいかいにでも来てしまったかのようだな」


ストリング皇帝はそう鼻で笑うと、2本のピックアップブレードをクリアとラスグリーンへと向ける。


「だが、それもよかろう」


そうつぶやいたストリング皇帝の顔は、実に楽しそうだった。

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