153章

アンをめまわすように見たロミーは、鼻をらした。


「その顔、まるであたしが来ることがわかっていたようじゃないか」


「ああ、私にはわかってた。お前を感じていたよ」


落ち着き払っているアンとは対照的たいしょうてきに、戸惑とまどっているスクワイア姉弟きょうだい


そして、ジャズのほうが声を出すと――。


「おい、私はこの女と話がある。お前たちは下がっていろ。それよりもなんだ? お前たちは上官を前にして挨拶あいさつも忘れたのか?」


ロミーの言葉に、ジャズとジャガーはその場で片膝かたひざをついてかがんだ。


2人はふるえながら、同じくらいの年齢である少女ロミーに平伏へいふくしている。


敵を助けようとしたことを聞かれたのだ。


スクワイア姉弟は、ロミーにこの場で殺されると恐怖をかくし切れないでいた。


だが――。


「お前たちの話は聞かなかったことにしておいてやる。だから行け、私の気が変わらない内にな」


ジャズとジャガーが、ロミーの言葉に戸惑っていると、アンも2人に下がるように言った。


それは、ロミーの言い方とは逆で、おだやかでやさしいものだった。


2人が去った後に、アンが着ているストリング帝国の軍服のボタンをめ始めた。


ロミーはそんな彼女を見ながら、両腕を組んで口をとがらしている。


「言葉づかいがちがうんだな」


「何がだ?」


アンがニコッと笑いながら言うと、ロミーは不機嫌そうに訊いた。


「“あたし”が“私”になっている。帝国で威厳いげんのある喋り方でも教えてもらったのか?」


「あたしは今ストリング帝国の将軍だぞ。そういうものも身につけられなければ、今の地位にはいない」


「今、また“あたし”って言ったぞ、お前。でもまあ、まるで少女版ノピア·ラシックみたいで笑えるが」


ロミーは、笑いながら言うアンをにらみつけた。


だが、すぐに表情を冷静なものへと戻す。


「そんなことよりも、さっきあいつらがした話……」


「ああ、帝国の軍隊がここへ来るのだろう?」


アンの返事を聞いたロミーは、そこから静かにある提案ていあんを話し始めた。


このままアンがストリング帝国に投降とうこうさえすれば、今眠っている仲間たちには手を出さないでおいてやる。


しかも、帝国に見つからずに、ひそかに逃がすことを約束するとちかうと。


アンはそれを聞いてプッとき出してしまった。


先ほどからずっとめた態度たいどを取る彼女に、ロミーは大声で怒鳴どなりあげると――。


「いやいや、別に笑ったのは悪い意味じゃないよ。こうやって話をしてみて、お前が変わっていないことがわかったから、ついな」


「変わっていないだと!? あたしは今や“義眼の猛獣”と世界中でおそれられる帝国の将軍だぞ!!! もうお前と会ったときのあたしじゃないんだ!!!」


さらに声をあらげて叫ぶロミーの肩をたたき、その横を通り過ぎていくアン。


ロミーが過ぎ去ろうとする彼女に向かって声をかけるが――。


「クロムが心配なんだろう? あとはルーとルドもそうか?」


「何を言う!!! あたしは合理的に考えて――」


「じゃあね、ローズ」


アンは背を向けたまま、右手を振ってその場を去っていった。


そして、1人城門へと向かい、その半壊はんかいした扉を通っていく。


「今度は……私がみんなを守る番だ」


アンがそうつぶやくと、治療ちりょうにより元の生身に戻った右腕が、再び機械の腕へと変わっていった。

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