152章

その後――。


城内に残っていたストリング兵たちは、ボロボロになった街の復旧につとめていた。


住民たちも慣れないながら、それを手伝うように指示を受けた。


それを指示したのがキャス·デュ―バーグだ。


元はストリング帝国の将軍であり、現在においてもまだ彼女をしたう者が多くいたため、その作業は順調じゅんちょうおこなわれた。


それに、マナ、シックス、クロム、ルドベキア、ルーザー以外の仲間と――。


ニコとルーも怪我けが人の治療ちりょうと、建物につぶされて出られなくなっている人たちの救助を手伝った。


「キャス、少し休んでくれ。後はもうまかせても大丈夫だろう」


目が覚めたアンが、心配そうにキャスへ声をかけた。


それは彼女以外の仲間――マナ、シックス、クロム、ルドベキア(ルーザーは先ほど言ったようにすでに倒れている)、すでに力を使いたして眠っていたからだった。


5人とも命に別状べつじょうはないようだが、それぞれの寝顔を見る限り、しばらくは目覚めそうにない。


それは無理もないことだった。


あれだけ力を使い続けたのだ。


精神的にも肉体的にも限界以上の疲労ひろうが残っていてもしょうがない。


キャスが自分にむちを打って、皆をまとめてくれたおかげだと思いながらもアンは、彼女に休んでほしかったのだ。


「何を言う。私をあいつらと一緒にするな。これしきのことで……」


キャスは言葉を言い切る前に倒れそうになったが、アンがそんな彼女をささえる。


「大丈夫か? やはり無理を……早く休んでくれ」


大袈裟おおげさだな、アンは。わかったよ。なら、少しだけ休ませてもらう」


ストリング兵や住民の前では気を張っていたキャスだったが、5人の仲間と同じように彼女の体ももう限界げんかいだった。


アンはキャスを、5人がいる寝室しんしつへと連れて行き、ベットで横になるのを確認すると、眠っている仲間たちの顔を見つめる。


そして、皆のベットの側に居た2匹の子羊――ニコとル―に近づいて行った。


「ニコもル―もありがとう……また会えて嬉しいよ」


アンはそう言うとニコの体を抱きしめた。


白い豊かな毛が彼女を包むと、ニコは嬉しそうに鳴いた。


「ニコ……みんなのことは頼んだよ。それとルーはニコのことをお願いね」


アンはそう言うと、その部屋を後にした。


その背中に、ルーが体に覆っている黒い毛を揺らしながら、力強く鳴いて返事をした。


「アンさん……」


部屋を出たアンの背中に声がかけられる。


振り返ると、そこにはアンと同じ深い青色の軍服を着た少年と少女がいた。


アンが以前にストリング帝国の兵士だった頃に、同じ部隊だった仲間――ストラ·フェンダーの従妹いとこであるスクワイア姉弟きょうだい――。


ジャズ、ジャガー·スクワイアの姿があった。


「あたしたちのこと……覚えていますか?」


長い髪を大雑把おおざっぱにまとめている少女――ジャズが表情を強張こわばらせている。


その横にいる少年――ジャガーが彼女と同じ顔をして立っていた。


「ああ、たしかストラのめいおいだったよな。君らは……」


アンは、以前にストラとレスが住む家で、このそっくりの双子ふたごに会ったことがあった。


だが、当時のアンは両親を殺した合成種キメラへの復讐ふくしゅうりつかれていたため、せいぜい顔ぐらいしか覚えていない。


アンはストラの最後を訊かれたら、そのことを詳しく話すかを迷っていると――。


「今すぐ逃げてください」


ジャズが顔を強張らせたまま言った。


どういうことだとアンが訊き返すと、彼女はそのまま話を続けた。


ストリング帝国の本隊に、本国で起きた状況じょうきょうを知らせた。


だから、すぐにでも帝国の軍隊がここへやって来ると。


アンは、この少女が何故自分を助けようとしているのかが、わからなかったが――。


「リンベース近衛このえ兵長は死に、ノピア将軍は生死不明……そんなときなのに……あなたたちは敵であるはずのあたしたちを助けてくれました。だから……」


小さい声で言葉を続けるジャズの体はふるえている。


そんな彼女の肩にジャガーが手を置いた。


「俺たちは、この戦争に疑問ぎもんを持ち始めています」


今度は少年が話を始めた。


テロリストと聞いていた反帝国組織バイオ·ナンバー裏切うらぎった女将軍をはじめとする――自然の力をあやつる人間に化けた合成種キメラ――。


英雄の危険度、帝国の外に住む人間の邪悪じゃあくさ――。


そう教えられたというのに、彼ら彼女らは傷だらけの体で、この国の人間たちをすくってくれたと。


「ああ、立場がちがうだけで、帝国以外の人間がみんな悪者というわけじゃないよ。私もそれを知るのに……いや、君らはスゴイな。私はそんなこと考えることもできなかった」


アンは申し訳なさそうに答えた。


そんな彼女を見て、ジャズとジャガーもようやく子供らしい笑みをかべ始める。


「それよりも、あなただけでも早く逃げてください。キャスさんたちのことはあたしたちがうまく誤魔化ごまかしますから」


さいわいなことに、キャスさん以外は顔も知られていませんしね」


ジャズとジャガーが、気さくにそう言うと――。


「そいつは良い考えだな」


ジャズとジャガーの後ろから声が聞こえた。


そして、その声の主がゆっくりと3人の前に現れる。


「ローズ将軍ッ!?」


スクワイア姉弟が驚きのせいか、同時にさけぶように言った。


そこにはアンのいもうとであり、ストリング帝国の将軍――ローズ·テネシーグレッチが立っていた。


「ロミー……いや、ローズ……」


その姿を見て、悲しそうにつぶやくアン。


だが、その顔に戸惑とまどいの色はない。


ロミーは、ジャズとジャガーを押しのけて、アンの目の前に立つ。


彼女の片方の目――義眼ぎがんが赤く点滅てんめつし、アンの顔をらした。

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