140章

ストリング帝国の城門を突きやぶり、城下町へと侵入しんにゅうしたアンは、その機械化した禍々まがまがしい姿でデジタルな咆哮ほうこうをあげながらあばれていた。


帝国の住人が住むレンガ作りの家や、建国記念日――祭りのために用意にされたはたかざりをただひたすら破壊はかいしている。


その中には、人型の道化師ピエロや楽器を演奏していた機械人形たちもざっていた。


街で暴れているアンが、あるものを見た途端とたん、急に立ち止まった。


それは、似顔絵を描いてくれる機械人形――。


祭りのときだけに現れるドローイングマシンだった。


すでにアンによって半壊はんかいしていたが、彼女はドローイングマシンへとゆっくり手をばしていく。


祭りでの出来事――。


ロンヘアとのことを思い出したのか、アンは突然苦しみだすと機械化した身体――全身をおおっている黒い鎧甲冑よろいかっちゅうが音を出してきしみ始めた。


「オオオアァァ!!!」


きずついた手負ておいの獣が叫ぶように、アンは地獄のめ苦を受けているような雄叫おたけびをあげる。


そして、彼女の体から雷鳴らいめいが鳴りひびき、稲妻いなづまほとばしり始めた。


その轟音ごうおん閃光せんこうが、ストリング帝国の街をさらに破壊していく。


「久しぶりだな、アン」


そこに、前髪で顔がかくれている老人――ルーザーが現れた。


それは、長年の友人にでも会うかのようだった。


彼は、我を忘れて暴れるアンを目の前にしても、言葉の通りのリラックスした様子だ。


だが、アンはルーザーへ向かって電撃をはなつ。


当然と言えば当然だが、彼の姿を見たくらいでは、アンは正気には戻らなかった。


彼女が放った電撃がルーザーに向かってくる途中――。


そこに1人の男が飛び込んできた。


ストリング帝国の将軍ノピア·ラシックだ。


ルーザーの前に出たノピアは、ピックアップブレードの白く光る刃で、放たれた電撃を打ち消した。


「なかなかやるね、ノピア君」


「いきなり作戦も無しに出て行ってどうするつもりなんだ!? お前が死んだらアンあいつを止めれなくなるだろう」


電撃を相殺そうさつした力をめるルーザーに、ノピアは苛立いらだちながら返事をした。


2人が顔を合わせた瞬間――アンはさらに電撃を放ってくる。


「っく!? マズい!?」


表情をゆがめるノピアが、再びブレードをかまえると――。


2人の後ろから轟音ごうおん閃光せんこうほとばしった。


電磁波放出装置――インストガンが撃ったリンベースがそこにいた。


「2人とも、大丈夫ですか?」


心配そうにけ寄ってくるリンベースに、ノピアは舌打ちを返した。


「何しに来たんだ? リンベース近衛このえ兵長」


「私の任務にんむは君主を守ること。そして、今現在はノピア将軍がそのお立場でしょう」


「いいから君は城へ戻れ、力のない者は足手まといだ」


冷たいノピア。


だが、それでもリンベースは引き下がらなかった。


表情をキリっとさせ、彼に食い下がる。


「なんと言われようとも、私は死んでもあなたを守ります」


普段見せることのないリンベースの力強い態度。


そのあまりの威圧感いあつかんに、さすがのノピアも思わずたじろいていた。


そのとき――。


また電撃が放たれたが、今度はルーザーが前に出て、その手をかざした。


手から現れた光の壁が、ノピアとリンベースを守る。


「こ、これが世界を救った英雄の力……!?」


リンベースがそんなルーザーの姿を見て、驚愕きょうがくしていた。


それは、目の前で見るまで、この老人にそんな力があるとは信じられなかったからだ。


前に出たルーザーは笑っていた。


「君ら2人の将来は“谷崎潤一郎たにざきじゅんいちろう”的になりそうだな」


「“谷崎潤一郎”的? 誰だそれは?」


「なに、古い作家さ」


それからルーザーは、手をかざして電撃をふせぎながら、ノピアとリンベースにアンを止めるための手段を話し始めた。

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