141章

ルーザーは、相手の体に手を当てることで、その相手の心に直接れることができると言う。


その力を使って、アンを正気に戻すのだと。


「その話なら報告ほうこくで聞いている。歯車の街ホイールウェイで使った力だな」


ノピアは彼の言葉を聞き、、暴走ぼうそうしたアンを止めるためには、やはりこの老人の力が必要だったのだとあらためて確信かくしんしていた。


「それは、サイコダイブのようなものでしょうか?」


今リンベースがたずねたサイコダイブとは――。


人の精神にもぐり込み、対象たいしょうの持つ記憶や精神的外傷トラウマを見ること。


そこから精神操作までおこなうことができる技術である。


このストリング帝国にあるローランド研究所でも行われている、専用の機器ききを使った科学技術だ。


「似ているが少しちがうかな。私の力には道具どうぐがいらない」


アンがはなってくる電撃をふせぎながら、ルーザーは笑みを浮かべて答えた。


彼のかざした手から現れる光の壁にはじかれた電撃が、3人の周囲しゅういにあった建物を破壊はかいしていく。


ルーザーは言葉を続けた。


「だがな、そのためにはアンに近づかなければならない。正直、現状げんじょうでそれはむずかしいだろう」


「なら、近づけるすきを作ればいいんだな?」


ノピアはそう言うと、ルーザーの前へと飛び出した。


背負せおっていたジェットパックを起動きどうさせ、そのまま地面れまでの距離きょりたもちながら、かなり低空で飛んでいく。


「ノピア君!? 無理をするな!!! これから助けが来る。それまで持ちこたえればいいんだ!!!」


「ルーザーさん。ノピア将軍はこうと決めたら意地いじでも動かない岩のような方……。ならば、やることは1つです」


微笑ほほえみながらそう言ったリンベースも、先ほどのノピアと同じようにジェットパックを起動させ、地面ギリギリを飛んでいった。


「やめろ、2人とも死ぬぞ!!! っく!? どうしてこうなるッ!?」


顔を強張こわばらせたルーザーは、しょうがないとばかりに2人の後を追いかけた。


……さっきルーザ―が言っていた助けが来るってのは、私もかすかに感じている。


だが、それが帝国の味方みかたであるとはかぎらん……いや、十中八九じゅっちゅうはっく敵だろう。


この感じ……おそらく“奴ら”だ。


ここでアン·テネシーグレッチとルーザーをうばわれるわけにはいかん。


アン·テネシーグレッチを止めて、またルーザーを眠らせたら、すぐにでもここから脱出するしかない。


ノピアはルーザーの言う、ストリング帝国へ向かってくる者のことをたしかに感じ取っていた。


だがそれは、この後のことを考えるに、帝国としては問題があると彼は判断はんだんした。


そのためにも、ここでアン·テネシーグレッチを確保かくほしなければならない。


電撃をけながらアンへと向かって行くノピア。


ジェットパックのはげしい加速により、すでにスカーフの位置はズレていたが、今の彼にそれを気にする余裕よゆうはなかった。


ノピアはある程度ていど近づくと、持っていたインストガンを捨て、こしびたピックアップブレードから白く光るやいばを出した。


すでにアンが、その黒い鎧甲冑よろいかっちゅうおおわれた自分の体を回転させて、彼へと向かって来ていたからだ。


はげしく回るその姿は、工業街――ホイールウェイで使われているフライス盤以上の威力を持って、ノピアの体をズタズタに切り裂こうと飛んでくる。


ブレードで受けるが、簡単にね飛ばされてしまうノピア。


だが、彼の後ろから電磁波が放たれて、アンを退しりぞけさせた。


「ノピア将軍、近づきすぎです!! 下がってください!!!」


インストガンをかまえたリンベースが、ジェットパックをさらに加速させ、ノピアの元へ向かう。


ノピアは、彼女の言われた通り距離きょりを取ろうとしたが――。


「オオオアァァ!!!」


アンがデジタルな咆哮ほうこうをし、その全身から電撃を放出ほうしゅつ


その稲妻いなづまは、まるでノピアを包むようにはなたれた全方位の攻撃だった。


「ノピアッ!!!」


そこへものすごい速度で向かって来ていたリンベース。


そして、反応できないノピアを突き飛ばした彼女が、彼の代わりにその電撃を受けてしまった。

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