139章

――ルーザーがアンの元へ向かっている頃。


ストリング帝国付近の上空に、1せきの船が飛んでいた。


「地図によると、もうすぐ到着とうちゃくするはずだよね?」


飛行船のかじをとりながら、銀白色ポニーテールをした少年――クロム·グラッドスト―ンが言った。


彼は、大きめのチュニックに帯を締めた格好に、その小さな体に見合わないほど大きなハンマーを背負っている。


「ああ、このあたりだ」


金髪のき通った碧眼へきがんの女性――キャス·デュ―バーグが返事をした。


彼女は、白いワイシャツに黒のコルセットを着ていて、タイトなパンツを穿き、その上から紺の外套がいとう羽織はおっている。


「おい、それよりもこの熊みてぇな奴は誰だよ?」


バンダナが巻いてあるハリネズミのように逆立った髪を揺らして、不機嫌そうに言った男――ルドベキア·ヴェイス。


左目の下にはほくろがあり、ファーの付いたショート丈のジャケット着て、その肩に斧槍ふそうハルバードをかついでいる。


「そっか、ルドとクロムは“初体験”だったね」


「それを言うなら“初対面”だぞ、マナ」


キャスがあきれて注意した赤毛のセミロングの女性――マナ·ダルオレンジ。


彼女は、赤いジャケット、首にはゴーグル、手には革のフィンガーグローブを付けている。


「そういえば、挨拶あいさつがまだだったな」


ルドベキアに熊と例えられた褐色かっしょくの男――シックス。


身長は2mはあるだろうか。


そでのない胴着のような服の上から筋肉が盛り上がっており、手足には鋼鉄の手甲脚甲てこうきゃっこうを付けている。


その会話を聞いた黒い子羊ががさわぎ始め、それを白い子羊がなだめ始めた。


「ゴメンゴメン。ルーもだったよね」


マナが頭をでている黒い子羊の名はルー、そして、それを止めている白い羊の名がニコだ。


ゆたかな毛でおおわれた電気仕掛けの羊2匹である。


この5人と2匹は、アンがこれまでの旅の中で出会った仲間であった。


現在5人と2匹が乗っている船の名はホワイトファルコン号――。


全長約8.8m、最高時速150km/h、最大定員10名の小型の高速飛行船だ。


この飛行船は、グレイに設計図を渡されたクロムが、ホイールウェイの職人たちと共に完成させたものだ(余談よだんだが、クロムはこの船の名を『ラブ·ロミー号』にしようとしたが、ルドベキアに却下きゃっかされた)。


ホワイトファルコン号を完成させたクロムは、この飛行船をグレイに届けるために、ニコとルーを連れてストリング帝国へと向かおうとしていた。


ルドベキアは、ガーベラドームがあった雪原の大陸から、クロムがいる歯車の街――ホイールウェイに来ていて、クロムからアンのことを聞き、共に向かうことになった。


その移動中――。


上空からキャスとマナ、そしてシックスの存在に気がついたクロムが、3人をこの飛行船に乗せたのだった。


ガーベラドームでアンたちと別れたキャスとマナの2人は、まず自分たち――自然を操れる者の正体が、コンピュータークロエが作った合成種キメラであることを伝えるために、彼のいるバイオ·ナンバーの本拠地へと向かった。


そこで、シックスの仲間であるブラッド、エヌエー、メディスンらの説得もあって、彼はキャスとマナと共に、コンピュータークロエがあったと言われる大陸へと向かっていたところを、クロムの操縦する飛行船に拾われたのだった。


それからクロムはホイールウェイであったことを3人に話した。


アンがストリング帝国に連れて行かれたと聞いた3人は、自分たちの目的を後回しにし、彼女を救出しようと帝国に行くことを決める。


――その後。


たがいに名乗り合ったクロム、ルドベキア、シックス(ルーのことはクロムが紹介した)。


「何となくそうじゃねえかと思ってたが、お前がシックスか」


「ホント熊みたいにおっきいね」


クロム、ルドベキアは、シックスのことをアンから聞いていた。


反帝国組織バイオ·ナンバーのメンバーで、自然の力――風を自在に操れる能力を持った男だと。


「俺もキャスとマナから聞いているぞ。ガーベラドームの若き王と大地の力を使う少年のことを」


そう言ったシックスは手をそっと差し出した。


「彼女たちの仲間なら俺の仲間でもある。よろしくな」


クロムは飛行船の舵をオート設定にすると、笑みを浮かべ、差し出されたシックスの手の上に自分の手を重ねた。


そして、ルドベキアも不機嫌そうにしていたが、クロムの手の上からさらに手を重ねる。


「なんかいいね、こういうの」


「そうだな。アンがきっかけでつながったきずなだ」


マナが嬉しそうに言うと、キャスも同じように笑っている。


すると、またルーが騒ぎ始めた。


ニコが再びルーをなだめ始める。


「悪かった。ルーもよろしく頼む」


シックスはかがんで、ルーの目線まで腰を落として、その手を掴んだ。


ルーがそっぽ向きながらも彼の手を握り返すと、その傍でニコが嬉しそうに鳴いた。


「よし! これから帝国に乗り込んでアンたちを奪回だっかいするぞ!」


キャスがさやから抜いた小剣――レイピアをかかげて叫んだ。


その場にいた全員が、彼女と同じように手をあげてその叫びにこたえた。

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