116章

ルーザ―がかざした手を引くと、アンを押さえていた光の壁が消える。


壁の消滅と共に、稲妻いなづままとったアンが一心不乱に飛び掛かってきた。


クリアは2本の刀を握り直し、逆刃さかばのほうでそれを受ける。


そのすさまじい衝撃で後退していくクリア。


彼女を押し潰そうとするアンに、ロミーがその脇を突く。


だが、カトラスの刃が彼女をとらえることはなかった。


生き物のように躍動やくどうする電撃が、ロミーを吹き飛ばしたからだ。


吹き飛んだロミーを狙って襲い掛かるアン。


だが、次はクリアが彼女に斬りかかっていく。


そして、一瞬の間もなくロミーも彼女に続いた。


2本の刀とカトラスが激しくアンを押さえ込もうとするのだが、まるで手が複数あるかのようにすべてを弾き返していく。


援護えんごしないのか?」


それを見ていたルーザ―が、グレイに声をかけた。


グレイは手にパンコア·ジャックハンマーを握ってはいるが、まったく撃つ様子がない。


「いま撃ったら2人に当たってしまうじゃないか。いや~それにしても3人ともスゴイね。特にアンなんかあんなに手が動いちゃったりなんかして」


軽口を叩くグレイ。


手をひたい近くに翳して、強い光をさえぎり、自分の視界を確保する姿勢。


今は夜なので、そんな必要もないのだが、遠くをながめるポーズを取りだした彼を見たルーザ―は、大きくため息をついた。


そんなルーザ―を見たグレイは、ニッコリと微笑む。


「君がグレイなのだろう? アンの話では頼りになる男と聞いていたんだが……まあいい」


「ほう、アンがそんなことをね」


ルーザ―は返事をせずに、ゆっくりと3人がいるほうへ向かって行った。


クリアとロミーは、激しく剣を打ちながらも、彼の動きを横目で見る。


「ロミーッ!! そっちの手をお願いしますッ!!!」


クリアが叫ぶとバックステップで下がり、2本の刀を振る。


飛んでくる斬撃をアンは右腕で相殺そうさつした。


だが、すぐさまロミーが飛び込んでいき、カトラスのつかの部分で彼女の左腕を打ち落とす。


「いまだぞジジイッ!!!」


ロミーが叫んだ。


ルーザ―は内心で、前より口が悪くなっていないか、と思いながらアンのふところへ飛び込んだ。


危機を感じたアンがデジタルな咆哮ほうこうをあげ、近づいたルーザ―に電撃をびせようとしたが――。


「悪いが、私のほうが速いかな」


ルーザ―のかざしたてのひらが輝き始めた。


そしてまばゆい光をはなちながら、それをアンの腹部へ当てる。


その光がアンの体をつらぬくと、彼女は嗚咽おえつのような声を出し、その場にゆっくりと倒れた。


「アンッ!!!」


クリアが叫びながらアンにけ寄り、ロミーは落ち着いた様子で傍へと向かう。


ルーザ―が彼女を介抱かいほうしたのを確認したクリアは、安堵あんどの表情を見せるとその場から消えていった。


「彼女はどこへ行くつもりなんだ?」


「ジジイ……わからないのか? クリアは決着をつけに行ったんだよ」


ロミーが無愛想に言った。


そして2人がアンの姿を見ると――。


「おい……これは……?」


思わず口出して言うロミー。


ルーザ―も両目を見開いていた。


何故ならアンの身体は、今もマシーナリーウイルスによる浸食しんしょくが収まっていないからだった。


まるで斑模様まだらもようのように、全身のいたる所から機械化が進んでいる。


せっかく止めたというのに――。


このままではアンは完全に機械兵オートマタ化してしまう。


「さすがにマズイな」


グレイが神妙しんみょうな面持ちで、アンに顔をのぞき込んだ。


3人が気を失っている彼女を前に、どうすることもできないでいると――。


「ここにいたのかね? シープ·グレイ」


落ち着いた低音の声。


3人が振り返るとそこには、機械兵オートマタの大軍を引き連れたストリング帝国の皇帝――レコーディ―·ストリングが立っていた。

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