115章

ルーザ―の手から出ている光――。


その光が壁となって動きを止められたアンは、狂った猛獣もうじゅうのようにもがいていた。


全身から電撃をはなって、あられのない方向へと飛ばしていく。


アンキノコ頭……どうして?」


ロミーが驚きを隠せずに、思わずつぶやいてしまっていた。


グレイがそんな彼女に気がつくと、傍へと寄っていく。


「やはり君も来ていたか、ローズ。クロムは一緒じゃないのかい?」


声をかけられたロミーは、普段の不機嫌そうな顔に戻ってグレイの姿に気がついた。


軽薄な態度の彼を見たロミーはにらみ返す。


「その名で呼ぶな。あたしはロミ―だ。クロムはニコとルー2匹とケガをした住民たちの手当てに回っている」


冷たいロミーの態度に、グレイはただ困った顔をしているだけだった。


アンを近寄らせないように手をかざしているルーザ―が、そんな彼に状況の説明を頼むと、代わりにクリアが話を始めた。


フルムーンの力で身動きが取れなくなったときに、彼女が自分の四肢ししを失ってまで戦おうとすると――。


アンがそれを止めて、突然あのような中途半端ちゅうとはんぱに機械化した姿になったと説明した。


「マシーナリーウイルスの影響だと思うが……。どうもストーンコールドと戦ったときとは違うみたいだな」


それから、今度はルーザーが話を始めた。


歯車の街ホイールウェイへ来る前にいた雪の大陸で、自我を持つ合成種キメラ――ストーンコールドとの戦闘時に、アンの機械の右腕が黒く変色し肥大化して、爆発的な力を発揮したときのことを――。


クリアはそのときはどうだったのかをたずねると、ルーザ―は今のように我を失ったりはしなかったと伝えた。


「じゃあ、打つ手なしか。困ったね、こりゃ」


軽い感じで言うグレイ。


口で言うわりには、とても困っているようには見えない。


そんな態度を見たロミーが、皆に聞こえるような舌打ちをする。


クリアも彼の言い方に、思わず睨みつけてしまっていた。


「手がないこともない」


ルーザ―が手を翳しながら言った。


以前の戦闘中に、肥大化した腕がストーンコールドに食われたことによって、機械の右腕が元の白い鎧甲冑よろいかっちゅうのようなものへと戻った。


おそらく、急激な体力の低下やダメージを受けると自然と戻るのではないかと、自らの予測を話す。


だがクリアは、アンの攻撃をすることに反対していた。


自分もフルムーンに操られたときに、アンが身をていしてくれたのにそんなことはできないと、激しく体をふるわせている。


「心配いらないぞ、クリア」


ルーザ―は笑みを浮かべて返した。


この光の力を使えば、アンを傷つけずに気絶させることができる。


彼がそう言うと、クリアはほっと肩をなでおろした。


「だが、問題はある。私がアンのふところに飛び込むまで、誰かが動きを止めておかねばらない」


それを聞いたクリアが前に出た。


そして、ロミーもその後に続く。


「やってくれるか?」


ルーザ―の問いに、クリアはニッコリと微笑み返した。


それとは反対にロミーは表情をゆがめている。


「当然です。今度は私が彼女を救います」


――クリア。


「偉そうなことを言っておいてあのザマだ。あたしがあいつの頭を冷やしてやる」


――ロミー。


「じゃあ、俺は後ろから2人を援護えんごするよ」


続いてグレイがニコッと言うと、ロミーがまた大きく舌打ちをした。


「では、光の壁を消すぞ」


ルーザ―の言葉に、クリアとロミーは息を呑んで、暴れるアンに向かい合った。

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