108章

小雪リトル·スノー小鉄リトル·スティール2本の刀で斬りかかってくるクリア。


アンは、それをピックアップ·ブレードの光のやいばで受け止める。


「クリア、私だよッ!! わからないのかッ!?」


言葉をかけ続けるアンを見て、フルムーンが鼻を鳴らして笑っていた。


横目でそれを見たアンは、表情をゆがめている。


「無駄よ、無駄。クリアは元々人を斬りたくってしょうがない女なんだから。あたしはただそれを解放しているだけに過ぎないの」


「そんなのは嘘だッ!! 会ったばかりだけど私にはわかるぞ。 クリアは誰にでも優しくできる素晴らしい心の持ち主だってッ!!!」


だが、そんなアンの言葉もむなしく、恍惚こうこつの表情を浮かべて激しく打ち込んでくるクリア。


反撃のできないアンは、ただそれを受けているしかなかった。


フルムーンが楽しそうに言葉をつなぐ。


「クリアは、そうねぇ~。もう100人は斬ったんじゃないかしら? この歯車の街ホイールウェイで切り裂き魔としてね。でも彼女は誰を斬ったかいちいちなんて覚えていないわ。覚えているのは、そう……夫であるブレイブ·ベルサウンドだけ」


「それはすべてお前があやつっていたせいだろうッ!?」


クリアの攻撃を受けながら、アンがフルムーンへ叫び返す。


「だからそれはきっかけよ、きっかけ。何度も言うけど、クリアは根っからの人斬りなのよ」


「お前の虚言なんて信じないッ!!! クリアッ!! お願いだから私の声を聞いてくれッ!!!」


「言葉だけじゃダメだよねぇ~。所詮人間クズなんていつも口だけ。解放された彼女には届きっこない。無駄無駄、あはッ!」


その人を小馬鹿にするような笑い声に苛立いらだったのか、また横目でフルムーンを見たアン。


クリアはその一瞬を見逃さなかった。


右手に持った小雪リトル·スノーでアンのブレードをはじくと、左手に握っている小鉄リトル·スティールで斬りつける。


……しまった!? くッ!?


アンが斬りつけられそうになった瞬間――。


吹き飛ばされたイバニーズが、クリアのほうへ飛んでいき、その攻撃はみだれた。


「喋っていないで、その右腕の力を使え、アン·テネシーグレッチ」


ノピアが意図的にイバニーズをクリアに飛ばしたのだ。


アンはそのおかげで再び態勢を取り戻す。


「ありがとう、ノピア。おかげで助かった」


「ふん、礼などはいらん。お前は俺の力のかてにするのだからな。こんなところで死んでもらっては困る。それより何故電撃を飛ばさないんだ?」


「大事な仲間に攻撃できない……。クリアは操られているだけなんだ」


「その甘さ……相変わらずの喜劇きげき役者っぷりだな。バカバカしい。なら勝手に死ね。次は助けんぞ」


ノピアはあきれると、前へ出てクリアとイバニーズに向かっていった。


アンは、仲間を相手に本気で斬りかかっていく彼の姿を見て戸惑とまどう。


……ノピアの言う通りだ。


このままじゃクリアに斬り殺されるだけ……。


だけど……彼女に……クリアには手を出せないよ……。


アンの脳裏のうりに、歯車の街ホイールウェイで来たときの記憶が浮かび上がった。


見ず知らずの人間を家にまねいて、食事をご馳走してくれたクリア。


彼女の上品に笑う姿が、フィルムに現像された静止画のごとく映し出される。


「アンッ!! 君のやりたいようにやるといいッ!!!」


突然、声が工場内にひびき渡った。


アンはこの声をよく知っていた。


小さい頃から、ずっと傍で聞いていた声だ。


「結果がどうなっても悪いほうへ行かないようにするよ。だから好きにやるんだッ!!!」


シープ·グレイの声――。


アンは彼の言葉を聞いて微笑んでいた。


……グレイの奴。


また適当なことを言ってるな……。


どうせ何も考えちゃいないだろうに……。


だけど……いつもそうだったっけ……。


アンの機械の右腕から稲妻いなづまほとばしる。


「決めた……。私はクリアを力づくで止める」


それの言葉を聞いていたノピアが、何故か笑みを浮かべていた。

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