106章

フルムーンを追うアンとクリア。


アンは走りながら思う。


……グレイはこの街にいるんだよな。


この騒ぎだ、無事でいてくれてるといいけど。


そのとき――。


突然白い光のやいばが振り落とされた。


アンはそれを握っていたピックアップ·ブレードで受け止める。


「見つけたぞ……アン·テネシーグレッチ」


アンと同じ深い青色の軍服を着た男――。


ストリング帝国の将軍――ノピア·ラシックだ。


アンは力でノピアを弾き返すと、ブレードをかまえて臨戦態勢りんせんたいせいに入った。


クリアも彼女の横に並び、小雪リトル·スノー小鉄リトル·スティールを持った手に力を込める。


「おい、待てよノピア。今はこいつらより街の騒ぎを止めるほうが先だ」


ノピアの後ろから声が聞こえる。


その声の主は、この歯車の街ホイールウェイを管理しているストリング帝国の幹部――イバニーズ・アームブリッジだった。


イバニーズはノピアをおさえると、両手をあげてアンとクリアのほうへ向かってきた。


そして、ある提案ていあんを2人にする。


労働者と帝国兵が我を忘れて暴れまわっているこの状況を止めたい。


だから手を貸してほしいと。


それを聞いたノピアは、ひたいに血管が浮き出ている。


アンとクリアは眉をひそめていた。


「お前たちを信用できると思うのか?」


アンの言葉にイバニーズは、自分の長髪を手で払いながら返事をする。


「そんな怖い顔するなって。おたがい目的は同じなんだから協力し合ったほうがいいじゃねえか」


「おいイバッ!! 貴様、こいつらと手を組むつもりかッ!?」


怒鳴り始めたノピアを見て、クリアが落ち着いた様子で持っていた刀を下げた。


「そちらのスカーフの方は納得してなさそうですが?」


「平気平気。ちょっと待っててくれよ」


イバニーズはそう言うと、ノピアの肩を引き寄せてアンとクリアに背を向けた。


そして小声で彼に耳打ちする。


「いいか、ノピア。物事には順序じゅんじょがある。さっきも話したろ? まずは暴動を止めて、それからマシーンガールだって」


ノピアは、ただ黙って顔をゆがめている。


イバニーズは、さらに続ける。


「大丈夫大丈夫。終わったら必ずお前の手伝いもするからよぉ」


「……わかった」


渋々しぶしぶ受け入れたノピア。


笑みを浮かべたイバニーズは、くるりとアンとクリアのほうを向いて、フルムーンが工場へ入って行くのを見たと言った。


「クリア……信用していいと思うか?」


「おそらく大丈夫じゃないでしょうか。彼らも部下をあやつられているのですから、この状況は何とかしたいはずですし」


クリアの返事を聞いたアンは、ピックアップ·ブレードのスイッチを切って、白い光を刃を消した。


そして、イバニーズとノピア2人の前へと向かう。


「勘違いするなよ。この騒動が静まったら必ずお前を捕まえるからな」


ノピアは不機嫌そうにスカーフの位置を直しながら、目の前のアンに向かって言った。


その横でイバニーズが、「まあまあ」と苦笑いしている。


だが、アンはノピアに手を差し出した。


機械の右腕ではなく、生身の左腕のほうを。


両目を大きく広げ、啞然あぜんとしているノピア。


そんな彼にアンが言葉をかける。


「ああ、とりあえずはすべてが終わったらな。それまでは仲間だ」


差し出した手をそのままに、アンはニッコリと笑みを見せる。


ノピアは「ふん」と鼻を鳴らして、イバニーズが言ったフルムーンがいるという工場のほうへと走り出した。


イバニーズが、アンに気まずそうに声をかけてくる。


「勘弁してやってくれ。あいつはあんたにご執心しゅうしんなんでな」


「別に気にしてない」


そう返したアンは、ノピアの後を追いかけて行く。


そして、クリアとイバニーズも後に続いていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る