105章

「ゴホゴホ、なんだこの不愉快ふゆかいな粉は」


「もう~ただでさえけむいのに~」


先に姿を現したロミーとクロムには変化がなかった。


それを見たフルムーンは、再びその美しい顔をゆがめている。


「クソッ! そっちの小さい女も機械か。少年ガキのほうは……あたしと同類か?」


アンとクリアは何故2人がフルムーンに魅了されないかわからなかったが、クロムが手をあげて言う。


「だってボクが夢中なのはロミーだけだもの!!!」


「クロムのバカ……」


クロムの言葉を聞いたロミーがつぶやきながら、そのほほを赤く染めていた。


それを見たニコとルーが、両手をあげてはしゃいでいる。


「あら、うらやましい」


「お前たち……惚気のろけている場合か。クリアもふざけるなよ。それよりもルーザーはッ!?」


全員がルーザーのほうを見ると、彼にも特に変わったところはなかった。


ルーザーは頭をきながら、まだっている鱗粉りんぷんを手で払っている。


「何百年も生き、れきっている私を魅了できるわけないだろう」


いつもの笑みを見せる彼を見て、アンとロミーが声をあげる。


「さすがだぞルーザー!! それでこそ“元英雄”だ!!!」


――アン。


伊達だてじゃないな、“元英雄”は」


――ロミー。


「だから2人とも、その呼び方はルーザーが嫌がるよ……」


そんな2人にクロムがあきれて言った。


だが、表情を歪めていたフルムーンは、ルーザーを見つめると元の笑みを戻した。


それから納得した顔を見せて「あはッ!」と鼻で笑う。


「あなたまでいたのね。これは楽しくなってきたかも」


「何わけのわからないことを言っている。追い詰められているんだぞ、お前は」


そんなフルムーンに、アンがピックアップ·ブレードから出る白い光のやいばを向けると――。


「うるせぇんだよ!! 人間クズがッ!!!」


苛立いらだったフルムーンは、今まで以上に顔を歪めて叫んだ。


その美しかった顔は、歪みによってよりおぞましいものへと変わっている。


「お前……ドンドン品がなくなるな」


アンが無愛想につぶやくと、彼女は表情を戻して、アンたちのほうへ手を振った。


労働者と帝国兵が一斉いっせいに襲い掛かってくる。


「それじゃ追いかけっこでもしましょう。鬼はあなたたちね。あたしは逃げなきゃ。バイバイ~」


人混みにまぎれ、フルムーンはただよう蒸気の中へと消えていった。


まわりを囲んでいる労働者と帝国兵たちを振り払おうと、アンが機械の右腕に力を込めたとき――。


「ここは引き受ける。お前たちはフルムーンを追え」


ルーザーが、手をかざして光の壁を作りあげた。


ただゾンビのように向かってくる労働者と帝国兵たちは、その光の壁によって進路をふさがれて動けないでいる。


「恩に着ます……」


クリアがルーザーに頭を下げて、颯爽さっそうとフルムーンを追いかけていった。


その後に、電撃をはなって労働者と帝国兵を退しりぞけたアンが走り出していく。


2人がけ抜けていった瞬間に、周囲の建物がくずれ、ルーザー、ロミー、クロムの目の前を塞いだ。


「あぁ~!! これじゃアンたちを追いかけられないよッ!!!」


叫んでいるクロムの横で、ロミーが2人の|後ろ姿を悔しそうににらみつけていた。


「くッ! しょうがない。今回はあいつらにゆずってやる」


そんなロミーの言葉を聞いたルーザーとクロムは、ついニヤケてしまっている。


そして傍にいたニコとルーも、同じようにクスクスと笑っていた。

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