103章

襲い掛かってくる労働者や帝国兵をぎ払い、クリアを捜すアン。


そして、ついに彼女を見つけた。


クリアは石畳の道に片膝かたひざをつき、労働者や帝国兵たちに囲まれている。


肩から血を流してうつむいている彼女を見たアンは、走りながら機械の右腕に力を込めた。


腕からは稲妻いなづまほとばしり、バチバチと音を鳴らし始める。


アンは、クリアをかばうよう前に出て電撃をはなつ。


その一撃によって、彼女を囲んでいた労働者や帝国兵は一掃いっそうされた。


俯いていたクリアが顔を上げ、前へ立ったアンの背中を見つめた。


「どうして助けに来たのです……? こんな場所へ来たらあなたの身も危ないというの……」


振り返った彼女の顔は、眉間みけんに深くしわが寄っていた。


それを見てうつむくクリアに、アンが怒鳴り出した。


「私は怒っているんだぞ!! 人の話を無視して勝手に飛び出して行ってッ!!! 自分は死ぬつもりだったのだろう!!!」


アンは、口元を歪めて、今すぐにでもクリアに飛び掛からん勢いで言葉を続ける。


「ふざけるなッ!! 私は手伝うって言っただろう!!! なのに……なのに。今度そんなマネをしてみろ!! 絶対に許さないからなッ!!!」


「……あなたの行動の理由がわかりません。どうして命をけてまで……」


クリアがそう言うと、アンは前を向いてピックアップ·ブレードをかまえる。


「大事……仲間は大事。……私たちはもう友達だろう?」


彼女はそうつぶやくと、再び周りを囲み始めた労働者や帝国兵へと向かって行った。


……と、言っても1人でこの数は厳しいな。


だけど、必ずクリアを守ってみせるッ!!!


この状況を改めて冷静に考えたアンは、それでも自身をふるい立たせた。


クリアを守り、ニコと共に生きてグレイに会う――。


今の彼女の頭の中は、そのこと以外は消えていた。


飛んでくる鉄パイプや、帝国兵が持ったアンと同じタイプのピックアップ·ブレードが襲ってくる。


なんとか弾き返すが、あまりにも手数が違いすぎた。


……まずい!? やられる!?


アンがそう思った瞬間――。


目の前にいた労働者や帝国兵が吹き飛ばされた。


「どうやらまだまだ戦えるみたいだな」


笑みを浮かべるアン。


彼女が目をやった先には、涙でクシャクシャになった顔をしたクリアが、2本の刀を構えて立っている。


「私はクリア·ベルサウンド……。亡き夫ブレイブ·ベルサウンドのたましいのやすらぎのため、そして友であるアン·テネシーグレッチの思いにこたえるために……参りますッ!」


アンは、そんなクリアの背中に自分の背をつけた。


背中合わせになった2人。


泣いていたはずのクリアの顔に、笑みがこぼれる。


「アン……ありがとう。あなたの背中は私が死守ししゅします。たとえ、この身に代えても」


「礼はいらないし、死ぬことなんて考えるんじゃない。それよりも私もクリアの背中を守るぞ。互いに守り合えば、半永久的はんえいきゅうてきに戦えるからな」


「おっしゃる通りですね」


アンとクリアは、声をかけあうと、再び手に握った武器に力を込める。


そのとき――。


2人へジリジリと向かっていた労働者と帝国兵の動きが止まった。


「あら? 切り裂き魔クリア。こんなところで会えるなんて奇遇きぐうね」


声がする方向にいた労働者と帝国兵が動き始める。


そして、彼らはまるで大昔の宗教の経典きょうてんに書かれていた、“海を割った”という奇跡きせきを思い起こさせるように道を作った。


その道をゆっくりと歩いて来る人物。


毛皮コートを羽織ったドレス姿の美女――フルムーン。


「ようやく会えましたね……今こそ“私たち”の無念を晴らしますッ!!!」


叫ぶように言うクリアの姿を見たフルムーンは、妖艶ようえんな笑みを浮かべて嬉しそうにしていた。

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