102章

その頃――。


アンたちは部屋で、カップを片付けに行ったクリアを待っていた。


「たかだか食器を片付けるだけなのに、ずいぶんと時間がかかるんだな」


彼女が1人ブツブツと言っていると、ロミーがあきれながら「ふん」っと鼻で笑った。


そんな彼女をにらみつけるアン。


ロミーも負けじと睨み返し、互いの視線しせんをぶつけ合う。


「もうッ!! 2人ともさっきケンカしたばかりじゃないかッ!!! 少しは仲良くしてッ!!!」


クロムが大声をあげると、睨み合ってアンとロミーが同時に「ふん」っとそっぽを向いた。


彼の言う通り、先ほど取っ組み合ったばかりだというのに、2人はまだまだやりりない様子だ。


その傍で、さすがのニコとルーもため息交じりで鳴いている。


そんな様子を見ていたルーザーが、ふと窓のほうを見ると――。


「おい、みんな外を見てみろ」


全員が窓から外を見ると、そこには夜だというのにずいぶんと明るかった。


建物が轟々ごうごうと燃えていたのだ。


アンはすぐに気がついた。


それは、誰かが火をつけたことによるものだと。


「一体何が起こっているんだ!? まさかラスグリーンの仕業じゃ……」


「いや、その男の炎とは色が違うだろう。これは単純な放火ほうかだな」


アンの言葉にルーザーが答えると、今度はロミーが声をあげる。


「おい!? リトルたちの姿がッ!!!」


それを聞いたアンたちが、小雪リトル·スノー小鉄リトル·スティールのほうを見ると、その姿があやしく光り出していた。


その光が部屋の中をおおくすと、気がつけば2匹のリトルたちの姿は消えている。


小雪リトル·スノー小鉄リトル·スティールが消えたってことは……」


「もしかしてクリアに何かあったんじゃないの!?」


ロミーに続いてクロムがそう言うと、アンたちはクリアのことを家中捜し回った。


だが、どこにも彼女の姿はない。


その間に、外では怒号どごうや破壊音が聞こえ始め、その音の鳴り方が次第に大きくなっていた。


「ま、まさか……暴動が始まったのか」


ルーザーがつぶやいた。


それを聞いたアンは、ハッと何かに気がついたのか、1人で外へと飛び出していく。


「アンッ!? どうしたんだよッ!?」


クロムがその背中に声をかけたが、彼女は返事もしなかった。


「……これだからアンキノコ頭は困る」


「ともかく私たちも追いかけよう」


呆れているロミーの肩を叩いたルーザー。


それから、全員でアンの後を追いかけて外へと向かった。


先に飛び出してたアンは走りながら思う。


……クリアのバカッ!!


なんでひとりで出て行ったんだ!?


手伝うって言ったのに……。


街の中を走るアン。


その光景は酷いものだった。


労働者たちが次々と建物に火をつけて、そこら中で殺し合いをしていた。


老若男女ろうにゃくなんにょ関係なく、ただ何かに魅了みりょうされているような表情で、笑みを浮かべながら傷つけあっている。


街の奥に進んでいくと、その中にストリング兵の姿も見え始めていた。


「なんなんだこれは!? こんなのもう暴動じゃない……!? だけど、今はともかくクリアを――彼女を捜さなきゃ」


身を守るためにピックアップ·ブレードを握ったアンは、クリアを捜すため、さらに街の中心へと走り続けていった。

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