101章

ノピアはイバニーズと共に、歯車の街ホイールウェイにあるストリング帝国の所有する屋敷へと戻っていた。


戻るなり予備の軍服に着替えて、自慢のオールバックをセットし直したノピアは、古い突撃銃を思わせる形状けいじょうをした電磁波放出装置――インストガンを持って出て行こうとする。


イバニーズはやれやれといった顔で、そんな彼を止めていた。


「そこをどけ、イバ。私はあの女を追いかける」


「おいおい、ちったぁ冷静になれよ。噂になっていた緑と黒の男と切り裂き魔の姉ちゃんが現れたんだぜ」


「そんなものはどうでもいいッ!! あいつが、あの女が、アン·テネシーグレッチがいたんだ!!!」


いつも冷静なノピアが、ここまで我を忘れて騒ぎ立てていることに、イバニーズは驚いていた。


それでもなんとか落ち着くように声をかけ続けていると――。


「イバニーズ隊長、ノピア将軍、失礼します。早急に報告したいことが」


2人がいた部屋に、ストリング兵がけ込んできた。


その兵は、あわてた様子で敬礼をすると早速話を始めた。


歯車の街ホイールウェイの労働者たちが、突然武器を持って暴動を起こした。


まだ被害状況の確認は取れていないが、街の各場所で始まっており、警備している兵だけでは事態を収拾しゅうしゅうさせることができないようだ。


それを聞いたノピアは、どうでも良さそうに言う。


「そんな暴動など、機械兵オートマタを使えばいいだろう」


オートマタとは、ストリング帝国が兵士がマシーナリー·ウイルスによって変化した機械兵のことだ。


ストリング帝国の科学者たちが開発した、人体を侵食する細菌――マシーナリー·ウイルス。


このウイルスは、体内で一定の濃度まで上がると成長し、宿主しゅくしゅの身体を機械化する。


機械化したものは、人体を超えた力と速度で動けるようになるが、宿主は自我を失い、ストリング帝国の完全なる機械人形へと変わってしまう。


「そりゃ無理だ」


ノピアの言葉を聞いて、イバニーズが返した。


その顔はバツが悪そうにしている。


ノピアは、そんな彼を問い詰めるように訊いた。


イバニーズはノピアから顔をそむけながら、この歯車の街ホイールウェイには機械兵オートマタを連れてきていないと言う。


それを聞いたノピアは「何故だ?」と、さらにめ寄った。


人差し指でほほきながら、イバニーズは片方のまゆを下げる。


「俺が皇帝閣下に頼んで、機械兵オートマタが街に来るのを断ったんだよ。だって気味がわりぃだろ? あれ」


「貴様、それでもストリング帝国の軍人か。自分の都合で兵をり好みするなど」


そう言われたイバニーズは、ニコッと笑顔を見せる。


ノピアは「何を笑っている」と訊くと――。


「いやいや、それはお互い様だろ。マシーンガールにご執心しゅうしんのノピア将軍」


肩を叩いて言うイバニーズ。


からかうように丁寧に言った彼に、ノピアはぐうのも出なかった。


「まずは暴動を止める。お前の大好きなマシーンガールはその後といこうぜ」


「ふん。わかった」


渋々しぶしぶ受け入れたノピアを見て、イバニーズがつぶやく。


「相変わらず扱いやすい奴……」


「今何か言ったか?」


「いやッ! いやいやッ! 何も言ってねぇよぉ」


そして2人は、歯車の街ホイールウェイの暴動を止めるべく、ストリング兵を引き連れて街へと向かった。

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