96章

ガキンッ!!!


ピックアップ·ブレードを白い刀と黒い刀が受け、火花がる。


アンへと斬りかかったノピアの前に、クリアが立ちはだかったからだ。


恍惚こうこつの表情を浮かべていたノピアの顔が、一瞬で元の不機嫌そうなものへ戻る。


「この歯車の街ホイールウェイでの騒ぎは、あなたたち帝国には関係のないことです。すみやかにお下がりください」


打たれた白い光の刃を受けながら、丁寧に返すクリア。


ノピアはそのまま弾き返し、彼女をにらみつける。


ホイールウェイそんなものはどうでもいい。そこをどけ女ッ!! 私が用があるのはアン·テネシーグレッチだけだ!!!」


「女性に声をかけるなら、もっと紳士しんしな態度が必要だと思いますが」


クリアがそう返すと、突然イバニーズが斬りかかってきた。


もちろんストリング帝国の武器――ピックアップ·ブレードを使ってだ。


身をかわした彼女を見て、イバニーズがヒュ~と口笛を吹く。


「こちらのべっぴんさんは俺が相手してやる。お前はマシーンガールをやれよ」


言われたノピアは、何も言葉を返さずに、アンのほうへと向かって行った。


クリアがそれを阻止しようと前に出るが――。


「おっと、悪いねお姉さん。あんたは俺と踊ってもらうぜ」


「不真面目、軽薄けいはく軟派なんぱ……。そんな男性は嫌いです。遠慮えんりょなく斬らせてもらいます」


「お~こわ」


イバニーズが、ヘラヘラしながら立ちはだかった。


アンへと向かってくるノピア。


だが、突然緑と黒のスパイラル状の炎が彼に襲い掛かった。


「さてと、今が逃げるチャンスかな?」


ラスグリーンはにこやかにそう言うと、全身にまとった炎を噴出して飛びあがっていく。


「待てラスグリーン!! マナのためにもここでお前を捕まえるッ!!!」


「アンだっけ? 君とはまた会える気がするな。では、まったねぇ~」


アンの叫びもむなしく、ラスグリーンはそのまま街をただよう蒸気の中へと消えていった。


そして、炎に包まれたノピアが、アンの前に現れる。


しっかりとセットされたオールバックの髪型は乱れ、着ている軍服も所々ところどころ焼けげているが、彼にひるんだ様子は見えない。


「待つのは貴様だぁぁぁ!!!」


「っく!? 今はお前の相手をしている場合じゃないのに」


そのとき――。


アンたちが戦っている中心に、何かが飛んできた。


それは果物のレモンのような形状けいじょうした――ハンドグレネードだった。


大爆発が起こり、爆炎が舞い、ただでさえけむたい周囲が、爆破によるけむりおおくされる。


「こっちだアンキノコ頭。早く逃げるぞ」


煙の中から声が聞こえる。


アンはその呼び方でピンッと来る――ロミーだ。


「街の中でハンドグレネードを使うなんて。もっとスマートなやりかたはなかったのか?」


アンはロミーの後を追いながら、ブツブツ文句を言い続けたが、義眼ぎがんの少女は「ふん」っと鼻をらして無視をした。


文句のネタが切れたアンは、クリアのことをたずねると――。


「心配いらないよ。クリアはルーザーが助けてるから」


いつの間にかクロムが、アンの横を並んで走っていた。


アンは、ルーザーが酔いつぶれて、だらしなくうなだれているさまを思い出す。


「……大丈夫なのか? あの酔っ払いで」


アンが心配そうに言うと、前を走るロミーが答える。


「さすがに“元英雄”だ。いざってときはシャキッとするだろう」


「まあ、そうだな。“元英雄”だしな」


「2人とも……その呼び方……ルーザーが嫌がるよ……」


ロミーとアンがみょうな落としどころで納得し合っていると、クロムがあきれながら注意した。


脱出する3人の背中には、ただよ爆煙ばくえんの中から、アンの名を叫び続けるノピアの声が聞こえる。


その声を聞くたびに、ビクッとするアンを見て、ロミーとクロムは笑った。


アンキノコ頭は男の趣味が悪い……」


「だねだね。あのスカーフの人って絶対ストーカーだよ。まったくアンはあの人に何をしたんだか。悪女だなぁ~」


ロミーが小声でクロムに言うと、彼はうなづき、からかうように言葉を繋いだ。


「なッ!? やめろ!? あんなのを私の趣味にするな!!! それに私は悪女じゃな~いッ!!!」


そんな2人に怒鳴り散らすアン。


そして、3人は無事にこの場を逃げ出して行った

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