95章

クリアが静かにアンとラスグリーンのほうへ向かってくる。


「お願い、リトルたち……」


クリアがそうつぶやくと、小雪リトル·スノー小鉄リトル·スティール2匹の姿が変化していった。


そして、その姿は白い刀と黒い刀となり、彼女の手へと握られる。


「私の名はクリア·ベルサウンド……。そちらの緑のジャケットを着た方、お初にお目にかかります。そちらの娘さんは私の客人ですので、誠に申し訳ありませんが、問答無用もんどうむようで斬らせていただきます」


礼儀正しく名乗ったクリアは、犬だった2本の日本刀を両手で握り直し、戦闘態勢に入る。


「すごいなぁ。犬が剣になっちゃったよ」


ラスグリーンは、まるで手品を見た子供のように嬉しそうにしている。


その隣でアンは、両目を大きく開けいた。


……な、なんで犬たちが剣に?


もしかしてこの力……クリアは、ストーンコールドが言っていた兄弟――意思のある合成種キメラなのか?


だけど、ルーザーが違うと――。


「では……参ります!!!」


クリアが、ラスグリーンへ向かって飛び込んでいった。


ラスグリーンは後方に下がりながら、少しばかり困った顔をしている。


「正直、いくら大人でも女の人の相手は気が進まないけど、向かってくるならやるしかないかぁ」


かざした手から、緑と黒の炎が立ち上がり、それが次第に形を成していった。


そして、あっという間に炎のつるぎが、ラスグリーンの手に現れる。


それでも、クリアはおくすることなく斬りかかった。


激しく燃える炎の剣と、2本の刀がぶつかり合う。


……ラスグリーンは止めなければならないけど、マナのためにも傷つけたくない。


だけど、クリアは私を助けるために戦っている。


っく!? どうするッ!?


私はどうすればいいッ!?


アンは、その打ち合いを傍で見ているしかなかった。


ニコがそんな彼女の服のそでを引っ張って、何かをうったえかけている。


その姿を見たアンは笑みを浮かべた。


「……決めた。ラスグリーンを捕まえてマナのところまで連れて行けばいい。そうすれば、それがグレイを助けることにもなるからな」


ピックアップ·ブレードにグッと力を込めたアンは、クリアと打ち合っているラスグリーンの後ろに回り込んだ。


「クリア、聞いてほしい。その男は私の仲間の家族なんだ。だから傷つけずに捕まえたい。手を貸してくれ」


アンとクリアにはさまれたラスグリーンは、全身から炎を出して、その場から高く飛びあがった。


そして、間合いを開けて再び2人と向き合う。


「事情はわかりました。1人を相手に多勢たぜいというのは気が進みませんけどね。ですが、1つ言わせてもらうと、この緑ジャケットの方はなかなかの手練てだれ。無傷となるとそう簡単にはいきませんよ」


クリアの握っている2本の刀があやしく光る。


それは、まるで彼女の意見に同意しているようだった。


「ああ、わかっている。この男の強さは身をもって体験済みだ」


ジリジリと間合いをめるアンとクリア。


「まいったな。マナの友達ならなおさら手が出せないんだけど」


ラスグリーンは、困った笑みを浮かべながら、手から具現化ぐげんかさせた炎の剣を引っ込めた。


アンが、観念かんねんしたのかと思うと、彼の身体から勢いよく炎があふれ始める。


緑と黒の炎がスパイラル状になって、ラスグリーンの周囲を生き物のように動き回っていた。


「けどねぇ。グレイという奴だけは燃やさないといけないんだ」


おだやかな顔をしながら、今すぐにでもこちらを焼きくしそうな勢いで炎が舞っている。


そして、舞っていた炎がアンとクリアのほうに狙いをさだめたとき――。


「おいおい、こんなとこで花火か?」


軽薄けいはくな声が聞こえた。


そこには、アンと同じ深い青色の軍服を着た2人が立っている。


ノピアとイバニーズだ。


「なぜノピアが!? っく!? よりにもよってなんでこうも大変な奴ばかりと遭遇そうぐうするんだッ!?」


ノピアに気がついたアンが、表情をくもらせる。


その反対に、不機嫌そうだったノピアの顏は、恍惚こうこつの表情へと変わっていった。


「ありゃ噂のマシーンガールか? って……おいおいノピア、お前その顔……」


そんな彼の姿を見て、若干じゃっかん引いているイバニーズ。


ノピアは全身をふるわせながら、ピックアップ·ブレードを握り、スイッチを押して白い光のやいばを出現させる。


「見つけた……見つけたぞ……アン·テネシーグレッチィィィッ!!!」


狂気を感じさせるほどの咆哮ほうこうをあげたノピアは、そのままアンに向かって走り出した。

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