番外編 ガールズ・ショッピング

ガーベラドームに入り、アンたちと別れたキャスとマナ。


2人はグレイの似顔絵を持って、ドーム内でやっているバザール――露店の周りを歩いていた。


「それにしても……」


キャスが似顔絵が描いてある紙を見ながら、静かに声を出す。


「アンの奴、こんなに絵が上手うまかったんだな」


アンの描いたグレイの似顔絵は、ペンで簡単に描かれたものだったが、顔の特徴とくちょうがわかりやすいものだった。


写真と見間違えるとまでは言わないが、知っている人がその似顔絵を見れば、すぐにグレイだと理解できるレベルのものだ。


「なんでもそのグレイって人に教えてもらったんだって」


「そうか。大したものだな……って、マナ。お前……何を食べているんだ?」


キャスがマナのほうを見ると、彼女は串に刺さった肉のかたまりを持っていた。


そして、それを美味しそうに頬張ほおばり、口をモグモグさせながら言う。


「そこで買ったんだよ」


「おい、ゴールドはどうした? さっきは持っていないようなことを言っていただろう」


そう言われたマナは、持っていた肉の塊を一気に食べてから、アンから預かったという財布を見せる。


そこには、一日ではとても使いきれないがくのゴールドが入っていた。


「こ、こんなにたくさん……」


「だから、ちょっとくらい減ったって大丈夫だよぉ」


「一応人のゴールドだぞ。それに後で返してくれって言われたって知らないからな」


キャスの言葉を聞いたマナの顔が、次第に青ざめ始めた。


そして、震えながらキャスの服の袖を掴む。


「ねぇ、グレイって怖い人じゃないよね?」


「はぁ?」


「勝手にゴールド使ったからって、身体で払えとか、船内で缶詰加工できる船に乗らされて、かにを捕ってこいとか言わないよね?」


「……なんだそれは、ずいぶん具体的だな。まぁ、あのアンの育ての親だからな。甘やかすタイプなんじゃないか」


呆れて言うキャス。


それを聞いたマナは、青ざめていた顔に笑みが戻り、両手を高々とあげた。


「決めた!! あたしもグレイの子になる!!!」


「マナ……恥を知れ」


それから、またグレイを探そうと散策さんさくする2人。


歩きながらキャスは、マナに小言を続けていた。


「大体な、人のものは勝手に使うなという話だろう。アンが怒るぞ」


「そんなの平気だよ」


自信満々で返事をするマナ。


キャスは何が問題ないのかを訊いてみた。


「アンのあたしへの気持ちを加味かみすれば大丈夫!!!」


キャスは、それを聞いてそれ以上小言をいうのを止めた。


その後――。


バザールのにぎわっている中で、2人は何度も声をかけられる。


そのたびにマナがついて行こうとするので、キャスはそれを制止し続けていた。


「これがナンパというやつか……本当に面倒だな」


「これで108回目だね。逆ハーレム作れちゃう」


「ちょっとは嫌そうにしたらどうだ? お前にすきがあるから声をかけられるんだ」


「あっ! あっちから美味しそうな匂いがする」


「コラッ!! 人の話を聞けッ!!!」


もの凄い速度で走り出したマナを追いかけるキャス。


追いついた先には、多くの食材が叩き売りされていた。


肉だけではなく。


野菜も魚も――そして焼き立てのパンまで屋台で売っている。


目の前で、その瞳を輝かしているマナに、キャスは肩を落としたが、しょうがないといった様子で彼女に声をかけた。


「こういうのも新鮮だな」


「あっ! わかるキャス? そうだよ~ここで売ってる食材は全部新鮮だよ」


「いや、それは新鮮違いだ」


……まったく、この娘は。


あまりにも自由過ぎるだろう……。


キャスは、年齢がそう離れていないだろうマナを見て、まるで子守をさせられている気分なっていた。


それから2人は、さらに歩き進めると、武器や防具などが売っている屋台へとたどり着く。


見たこともない剣や銃を見ると、さすがのキャスも興味を持ち始めた。


「どれも古いものばかりだな」


置いてあったロングソードのさやから抜き、一振り。


……やはりピックアップ・ブレードに比べると重いな。


剣技には自信があるが、こんな重たいものはあつかえそうにない。


キャスが他の剣も物色していると――。


「キャス、見て見て!! これなんかあなたにピッタリじゃない!!!」


はしゃぐ声が聞こえたので振り返ってみると、そこにはかなり露出度ろしゅつどの高いよろいを持ったマナが満面の笑みで立っていた。


俗にいう、フィクションに登場する女性キャラクターが身に付ける鎧――ビキニアーマーだ。


そして、それをキャスに試着しちゃくするように言ってくる。


「な、なんで私がこんな裸同然のものを着なければならんのだ!!!」


キャスはビキニアーマーを見て、顔を真っ赤にして怒鳴りあげた。


そんな彼女を見たマナは、くちびるとがらせて不満そうにしている。


「え~だってキャスはスタイルいいから、絶対に似合うと思って」


「こんな露出の多い格好などできるか!!!」


「いいから買っちゃおうよ。もちろんおそろいで」


「着るかバカ者ッ!!! お前だけ着ていろ!!! この露出狂がッ!!!」


そのとき――。


遠くから轟音ごうおんが聞こえ始めた。


そして、2人が音のするほうを見上げると、バチバチと電撃が光っている。


「これは……あれだな」


「うん、急がないと。たぶんもう戦っているよ」


顔を見合わせたキャスとマナは、それから電撃が光が見えるところへとけ出していく。


「あ~あ、あの鎧欲しかったな。ねえ、あとでまた買いに来ようよ」


あきらめろ。もう2度とあんなものは見たくない」


そして彼女たちは、アンとクロム、そしてニコの元へと急いだ。

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