74章

マナは信じられないといった表情で狼狽うろたえだし、キャスは怒鳴るようにルーザーに食って掛かった。


「おいおい、なにに受けてんだよ」


「うるさいッ!!!」


ルドベキアが止めに入ったが、キャスは叫ぶように言葉を放って彼を下がらせた。


そして、ルーザーの胸倉を掴んで激しく揺さぶる。


「何をふざけたことを言っているッ!! 私はずっと合成種キメラと戦ってきた戦士だぞッ!!! 帝国から脱退だったいした身とはいえ、今まで人を守るために化け物を殺してきたことは私のほこりだ!!! それを貴様は愚弄ぐろうする気かッ!!!」


……キャス。


止めなきゃ、止めなきゃいけないのに……。


アンは、そんな彼女を見ると、止めようと思っても体が動かなかった。


それは、まだ出会ってから月日が浅いものの、互いに命を預け合う仲であるキャスが、そこまで取り乱したところを彼女は見たことがなかったからだった。


「自分が人間だと思って合成種キメラを殺していたというのに、実は自分自身も化け物だったという話か……ラヴクラフト的だな」


反対に落ち着いた様子で返すルーザー。


キャスは、乱暴にその手を離すと背を向けてうつむいた。


マナはそんな彼女に寄りう。


震えるキャスをそっと抱くマナ。


それは、まるで自分をなぐさめているかようだった。


「私は信じないぞ……そんな戯言たわごとなど……」


マナにはキャスの心情がよく理解できた。


マナはキャスとは違い、戦士として戦っていたわけではなかったが、彼女の父親は合成種キメラに殺され、母親はその合成種キメラと戦ったことで殺されたからだ。


そんな化け物が自分だとは、信じられないというよりは、先ほどキャスがブツブツ言っていたように信じたくないのだろう。


「マナ、キャスッ!!!」


アンが大きな声を出して、寄り添っている2人に近づく。


心なしか、アンも震えているようだ。


「気にしないで、とは言わない……いや、言えないけど。私にとって2人が大事な人であることは変わらないよ……」


その言葉を聞いたマナとキャスは、ただアンを見て両目を開いているだけだったが――。


「……うん。ありがとね、アン」


マナがいつもの笑みを浮かべて返した。


そして、キャスも両腕を組んで、ツンっとした感じで彼女に続く。


「ふん。少々取り乱したがどうということはない。何があろうと私は私なのだからな」


そう言ったキャスを見て、アンとマナは笑った。


それは、そこにいつもの勝気かちきな彼女がいたからだった。


ニコも嬉しそうにそれをながめていると――。


「う、嘘だ……そんなのは嘘だよぉ……」


クロムが震えながらつぶやいていた。


ルーがクロムの背をさすっているが、相手にせずに彼は独り言を続けている。


「だって、プラムを殺したのはストーンコールドキメラじゃないか……。それにボクが合成種キメラだったらロミーと一緒に居れなくなっちゃうよ……」


クロムは止まらずにずっとブツブツと言っている。


その様子を見ると、マナやキャス以上にショックを受けているのがわかる。


「ボクが合成種キメラだって……? イヤだよ……イヤだイヤだイヤだ!! そんなのイヤだぁぁぁ!!!」


「おい、クロム。ちょっと落ち着けよ」


赤子が泣くように叫び始めたクロムに、ルドベキアがなだめようと声をかけると――。


ゴゴゴゴゴゴォォォ、と鳴り、部屋全体が揺れ始める。


「な、なんだ地震か!?」


アンが揺れを感じて言うと、その地震は次第に大きくなっていった。


同じ炭鉱跡内でも、ルーザーの部屋には材木を組みわたしてはなく、き出しの洞窟のような状態だ。


その天井から不格好な鍾乳洞しょうにゅうどうが落ち始める。


「ボクは合成種キメラじゃないッ!!! ボクはバケモノなんかじゃないよぉぉぉ!!!」


クロムが立ち上がって叫ぶと、それに呼応こおうするかのように激しく揺れ始めた。

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