73章

「悪いが、私に説明できることはあまりないよ」


ルーザーは、そう言うとその理由わけを話し続けた。


彼は、目が覚めるとこの炭鉱跡にいて、そこからひとりで何百年も過ごしていた。


やがて雪の大陸に人が集まると、ガーベラドームができ、ここで育てていた野菜を売りに行くようになる。


目覚める前の記憶が酷く曖昧あいまいで、コンピュータークロエの暴走で世界が崩壊ほうかいしたことも知らないと言う。


クロエや合成種キメラのことは、ガーベラドームで野菜を売った客から聞いて知ったと――。


ルドベキアが「そんな冗談を言うジイさんとは思わなかった」と鼻で笑った。


その態度は、そんな世間知らずがいるはずないと思ったからだ。


「見てくれ、この体を」


ルーザーは、そう言うと着ているボロボロの法衣ローブはだけさせ、上半身をアンたちに見せた。


アンたちは、その体を見て驚愕きょうがくする。


「こ、これが人間の体か……?」


ルーザーの上半身には、左腕から肩かけて刺青が入っていて、そこから心臓の付近までがち果て始めていた。


枯れ木のような体――。


それは、まるで何年も水を与えられなかった木々のように風化していっているというのが適切な言い方だろう。


彼が言うに、目覚めてから大体80~90年くらい経ってから、こうなったと言う。


おそらく、人の体では何百年の時を生きるのに持たないのだろうと――。


ルーザーはそう言うと、法衣ローブを着直した。


「あ、あなたは不死身なのか?」


アンが言葉にまりながら訊いた。


彼女は、今までも常識が通用しない事態を何度も見てきた。


合成種キメラ――。


崩壊後の世界で生まれた異形いぎょう生物――。


自身がおかされているマシーナリー·ウイルスによって変化する機械人形オートマタ――。


マナやキャス、そしてシックスのような自然を操る力を持つ者たちのことを――。


だが、実際に何百年も生きた人間が目の前にいることが、アンの動揺どうようを誘った。


「いや、不死ではないよ。この体が朽ち果てれば死ぬもするだろう」


ルーザーは、朧気おぼろげな記憶の中で覚えている言葉だと言い、話し続ける。


「これは私の罪であり呪いなんだそうだ。「簡単に死ぬことは許されない」……そう大昔に言われたような気がする」


それを聞いたアンたちは、何も言うことができなかった。


こんなこと聞かなければよかったと、各々がそれぞれうつむいている。


だが、それでもアンは質問を続けた。


「さっきの力……ストーンコールドを跳ね飛ばした力や、今ロミーを治した力も、その呪いの影響なのか?」


アンの言葉に、ルーザーは首を横に振った。


そして彼は、これは古き友……家族からの貰い物なのだと言う。


「それって、あたしが聞いた女神を封印しているって話に繋がらない?」


マナが話に入って来ると、ルーザーは彼女とキャス、そしてクロムのほうをそれぞれ見る。


そして首をかしげ始めた。


「今が気がついたんだが、なぜ人と合成種キメラが一緒に居るんだ?」


ルーザーはキョトンとした顔をでそう言うと、その場にいる全員が「何を言っているんだ?」とポカンとしたほうけた表情になった。


「なに言ってんだ、ジイさん? 合成種キメラなんていねえぞ。急にボケが始まったか?」


ルドベキアが皆が言いづらいことを言うと、ルーザーはゆっくりと返した。


マナ、キャス、クロムを順番に指でさして言う。


「そこの赤毛と金髪のお嬢さん2人と、銀白髪の少年は 合成種キメラだ」


ルーザーの言葉で、先ほどから冷えていた空気がさらにこおりついた。

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