51章

クロムがプラムのこと――昔あったことを話し終わると、それから何故ロミーがグレイを憎んでいるかを続けた。


3年近くも自分やプラムのことを放っておいて、今さら迎えに来たと現れた彼に、ロミーは耐えられなかったのだ。


また迎えに来るから、この小屋で待っていてほしいと言うグレイに、ロミーはサブマシンガンVz61――通称スコーピオンを乱射して追い払った。


話を聞き終わったアンたちは、何を言えばいいのかわからなくなっていた。


「そのプラムという女性……尊敬に値する人物だ。ぜひ会ってみたかった」


キャスの言葉に、クロムは微笑んで返したが、その後に言葉を続ける者はいなかった。


テーブルの上に出された料理が、次第に冷たくなっていく。


それでも誰も手を付けようとはしなかった。


「暗くなっちゃったね。ごめん……」


「そんな!? クロムは悪くない……」


アンが申し訳なさそうに言葉を返した。


皆が沈んでいる中、それでもクロムは笑顔のままでまた話を始めた。


ロミーに追い払われたグレイを追いかけたクロムとルー。


そのときのルーは、普段は見せない、まるで子供のような態度でグレイに甘えていたらしい。


それからクロムは、彼がガーベラドームにある蒸気列車が走る線路で隣の大陸を目指したことを聞く。


そして、もしここへ機械の腕をした少女が来たら、この手紙を渡してほしいと頼まれたと付け加えた。


クロムは部屋の中にあった棚から、その手紙を出してアンに渡した。


その内容は――。



――アン、すまない。


バイオのところにかくまってもらおうと思ったけど、どうもそれどころじゃなかったみたいでね。


一応メディスンという人には雪の大陸に向かうことは伝えておいたから、きっと君ならここまで来ると信じてこの手紙を書いたよ。


この小屋に住んでいるロミーって呼ばれているについて、君に話せなければならないことがあるのだけれど。


それは2人がいるときに直接会って話したいから、ここでは伝えないでおくよ。


俺はこれから隣の大陸で、ストリング帝国に見つからない安全な場所を確保かくほするから、それまでこの鍛冶屋で待っていてほしい。


とはいっても、かなり古い伝手つて辿たどっていくので、うまくいくかはわからないけどね。


でも、必ず迎えに行くから――。


親愛なる家族へ。


グレイより――。



「グレイのやつ……相変わらず計画は立てているくせに行き当たりばったりだな」


その手紙を読んだアンは、歓喜かんきの混じった声でつぶやいた。


目に涙をためたアンに、マナがそっと真っ赤なハンカチーフを差し出す。


それを受け取ったアンは、手紙の内容のことを、キャス、マナ、ニコへと伝えた。


「それで、どうするアン? ここで待っているのか?」


キャスが訊くと、アンはイスから立ち上がって答える。


「当然、私も隣の大陸に行くぞ!!!」


「何が当然だ……。まあ、そっちのほうがお前らしいが」


「アンったら、やっぱりじっとしてられないのね」


キャスとマナが、そんなアンを言葉を聞いてあきれれながら笑った。


そんな2人とは別に、ニコはアンの傍で、嬉しそうにピョンピョンねていた。


アンの言葉で明るくなっていく場に、クロムが微笑みながら言う。


「なら、ボクがガーベラドームまで案内してあげるよ。あそこは余所者よそものを入れてくれないからね」


アンたちは、クロムの言葉を聞いて、反帝国組織バイオ・ナンバーの兵士が去り際に言っていたことを思い出した。


ガーベラドームの住人たちが狂暴過ぎて、ストリング帝国もバイオ・ナンバーも近寄れないということ――。


だが、クロムがいれば中へ入ることができる。


アンは立ったままで、クロムに向かって頭を下げた。


「クロム……何から何まですまない」


その傍で、先ほどまではしゃいでいたニコも同じように頭を下げている。


「もう~気にしないでよ。ボクはこういう人のえんってやつを大事にしているんだ」


それから料理を食べ、後片付けをしたアンたち。


これからクロムの案内で、この雪の大陸で唯一文化が残っているガーベラドームへと向かった。

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