52章

クロムたちが住む鍛冶屋の小屋から、ガーベラドームまではさして遠くなく、途中でマナとニコが雪を使って遊ぶくらい安全な道だった。


歩を進める中で、ニコがクロムの背中にあるモノにじゃれている。


彼の背中には、布に包まれた背丈を超える大きなモノがくくりけられていた。


マナがそれは何かと訊くと、クロムは“宝物”だと笑って答える。


「宝物なんだ。いいね~!!!」


そんなマナたちの後ろでアンは、グレイの手紙の内容のことが気になっていた。


――ロミーって呼ばれているについて、君に話せなければならないことがあるのだけれど。


……グレイはあの義眼の少女のことで、私にどんな話があるんだろう?


共通点を考えると、あの娘も私と同じようにグレイに拾われたってことだけだが……。


そのことじゃないのか? それとも別の……?


いつもの無愛想な顔を歪めて、難しい顔をして歩いているアン。


せっかくグレイの糸口が掴めたというのに、その足取りは重くなっていた。


「まったく、なんて顔をしているんだ」


前を歩いているキャスが、呆れた声を出した。


アンは、自分が声をかけられたのかわからずに、思わずたずねてしまう。


「私に言ったのか?」


「他に誰がいる? お前以外の全員は笑顔だぞ」


言われてみるとマナもニコも、そしてクロムも皆、楽しそうに歩を進めていた。


アンは前に出て、キャスの横に並ぶ。


そして、彼女の顔をのぞき込んだ。


じっと見つめてくるアンに、キャスは冷めた顔で訊いた。


「なんだ? 人の顔をそんなに長く見るものじゃないぞ」


「いや、キャスは笑っていない。だから全員じゃない」


アンの言葉に苛立いらだったキャスは、片手で頭にき、苦虫をみ潰したような顔をした。


さすがにキャスもアンのそんな性格に慣れて来ていたのか、怒鳴り返したりはしなかったが、呆れながらいちいち細かいと伝える。


「大事……細かいことは大事。でも、ありがとうキャス」


そうつぶやいたアンは、笑みを浮かべて前を歩いていった。


それからアンたちは、遠くの空に鳥の群れが飛んでいくのを見た。


「わあ~チキンがたっくさんッ!! いや~美味しそうだね~。ねえ、捕まえて今夜のご飯にしようよ」


「相変わらずお前にとって生き物は食べ物だな」


マナが嬉しそうに言うと、今度はアンが呆れた顔をして言った。


そして、目的地のガーベラドームに到着した。


球体型の収容ドーム――。


その真っ白な雪景色にたたずむ白い卵のような外観がいかんは、遠目からでは見えづらいものだった。


聞いた話だと……と、クロムが説明を始めた。


ガーベラドームの建築面積は約80000m2 最高所さいこうしょの高さは約120mで、中で生活をしている住人の数はおよそ300人らしい。


それを聞いたキャス以外のメンバーは、皆ポカンとしている。


広さを聞いてもいまいちピンとこないからだった。


「その大きさにしては住人の数が少ないな」


「まあ、ドームの中は無法地帯だからね。治安がとっても悪いんだ。だから昔は死んじゃった人もいっぱいいたんだよ」


キャスがそう言うと、クロムが少しうれいを含んだ表情で返した。


それからクロムは慣れた様子で、入り口だと思われる強固な門の前に立って大声をあげた。


門の中から声が返って来る。


「名を名乗れ」


「ボクだよ、クロムだよ」


物々ものものしい声に対してクロムは、普段の軽い感じで返す。


門番だと思われる男は、それからいくつかクロムに質問をして、確認が終わると門が開いた。


余程よほどのことでもない限り、破壊されそうにない頑丈がんじょうそうな門がゆっくりと開いていく。


それを見たアンたちは、思わず口の中にまったつばをゴクリと飲み込んでしまっていた。


「さあ、中へ入ろう」


クロムが先頭を切って進んでいくと、開いた門の中から暖かい風が吹きつけてきた。


……手紙のこと……ロミーのことは今考えなくていい。


それよりも、グレイがいる大陸に行くために必要な蒸気列車に乗らなければ。


ここは無法地帯と言われているところみたいだから、簡単にはいかないかもしれないけど……。


いや……何があっても絶対に乗ってみせる。


もう少し、もう少しでグレイに会えるんだ。


アンは、気を引き締め直して、ドーム内へと入って行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る