49章

ロミーがすっかりこの鍛冶屋に馴染んだ頃――。


クロムとプラム2人は、ガーベラドームまで鉄を打って作った武器をおろしに出かけていた。


ロミーはいつものように小屋の外で、なたのような剣――カトラスを振っている。


ルーもロミーに付き合って、その横で彼女をマネて、拾ってきた木の棒を振っていた。


ロミーは、けして口には出さなかったが、クロムからプレゼントされたカトラスをさやに納め、それ抱いて眠るほど気にいっている。


クロムは、そんな彼女の姿を見て、照れからかニヤニヤしてしまい、プラムにからかわれたりしていた。


今日はいつもより暖かく、照りつける太陽が白い雪の地面に反射していた。


それは、まるでロミーの今の心を表しているかのようだった。


両親を殺した合成種キメラへの復讐心が消えたわけではなかったが、ロミーはその気持ちをうすれさせてくれる暖かさに居心地の良さを感じていた。


悪くない、あたしは2人のことが好きだ――と。


「ルー、ちょっと休もう」


ロミーがそう言うと、ルーは木の棒を雪の地面に突き立てて、彼女の元へ寄りう。


ロミーとルーは、側にあった丸太の山に腰をかけ、空を高く見上げた。


少し冷たい風が吹き、ロミーのクロムに束ねてもらったシュリンプスタイルの髪が揺れ、ルーがそれにじゃれていた。


「こら、やめろよルー。せっかくセットしてもらったのに髪が乱れるじゃないか」


ロミーが、じゃれつくルーを笑顔で払ったが、それでもはしゃぎながらそれを止めなかった。


そんなやりとりをしていると、遠くから大きな足音が聞こえてきた。


ロミーは、雪虎スノー・タイガー氷熊アイス・グリズリーが出たのかと思って、小屋の中に入ろうとすると――。


空から大きな物体が飛んできて、雪の大地に衝撃が走った。


地震のようなそれは、ロミーとルーの動きを止めるのに十分な揺れだった。


「なんだ子供ガキかよ」


そこには、8メートルはありそうな大きな生き物が立っていた。


鹿ような大きな角が生え、下半身はギリシャ神話に出てくる半人半獣の種族――ケンタウロスような雪虎スノー・タイガーの四肢、上半身は青い体毛でおおいつくされている。


その半人半獣の生き物は、ロミーとルーの顔を覗き込む。


「よう、俺はストーンコールド。ここに馬鹿力を持った鍛冶屋の女が住んでいるって聞いたんだが、中に居るか?」


ストーンコールドと名乗ったその半人半獣の生き物は、震えるロミーとルーに訊いた。


恐怖で震えていたロミーは、ストーンコールドの半人半獣の身体を見て理解した。


「お、お前はキメラだな……」


右目の義眼が彼女の感情に反応して、激しく点滅し始めた。


ストーンコールドは、自分の耳に指を入れ、ほじりながら興味がなさそう返す。


「はぁ? キメラだぁ? ……そうか。お前ら人間はママの作った生物をそう呼ぶんだったな」


そして、指についた耳垢みみあかを落としながら言葉を続けた。


「そうだ。俺はお前らが言うところのキメラだよ」


ストーンコールドがそう言った瞬間――。


ロミーは、持っていたカトラスを抜いて斬りかかった。


だが、ストーンコールドの下半身――雪虎スノー・タイガーの前足でいとも簡単に払われる。


「なかなか見所のある子供ガキじゃねえか。俺様に喧嘩を売ろうなんてよ」


そして、ストーンコールドの手によって体を鷲掴みにされたロミーは、そのまま宙に持ち上げられる。


ルーが泣きながら下半身に喰らいつくが、ストーンコールドはまるで虫でも払うかのように手で弾き飛ばした。


「ルー!? く、くそ、くそ!! 絶対にお前を殺してやるッ!!!」


「ほう、じゃあやってみろよ」


そう言ったストーンコールドは、ロミーを放り投げた。


丸太の山に投げ出されたロミーは、頭を切ったのか乱れた髪から血が流れていた。


「うおぉぉぉ!!!」


だが、ロミーはフラフラと立ち上がり、落としたカトラスを握って、ストーンコールドへと斬りかかっていく。


カトラスの刃を何度も足に打ち込んだが、ストーンコールドにはまるっきりダメージを受けた様子はなかった。


「ほれ、どうした? 俺を殺すんじゃないのかよ」


ストーンコールドはロミーを小馬鹿にした態度であしらい、またその小さな体を掴むと、今度は小屋の壁に叩きつけた。


ロミーの体は小屋の壁を突き破り、建物が半壊する。


彼女はその衝撃で気を失ってしまう。


ストーンコールドは、そんなロミーへ近づいて行くと、その前にルーが立ちはだかった。


「なんだよ、ご主人様を守ろうってか?」


半ばあきれているストーンコールドに、ルーはロミーを守ろうと必死で泣き叫んだ。


――弱い犬ほどよく吠える。


今のルーは、ストーンコールドから見ればまさにそれだった。


「お前なんか食っても意味ねえしな。まあいいや」


ストーンコールドが、小屋の前に立っているルーに向かって行こうとすると――。


「おい、あたしの娘になにをしている?」


突然、声がしたと思ったらストーンコールドの背中にもの凄い衝撃が襲う。


ぶつかってきたのは人の体よりも大きな岩だった。


声がするほうを振り向いたストーンコールド。


そこには、バンダナを巻いた女性が、身体に見合わないほどの大きなハンマーを持って、とてつもない形相でにらんでいる。


プラムだ。


「お前が鍛冶職人の女だな」


プラムの姿を見たストーンコールドが、岩をぶつけられた箇所をさすりながら嬉しそうに笑った。

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