45章

銀白色のポニーテールをした少年が、黒装束の少女と黒い羊の元へと近寄っていく。


どこかへ出かけていたのか、少年の体をよりも大きな袋を抱えていた。


「だからロミー、この人たちはキメラじゃないよ!?」


「うるさいぞ、クロム。こいつらはあたしたちの家を襲ってきたんだ。それに身体から炎や水を放つ人間離れした技を使う。確実にキメラだ」


「ボクは知ってるんだ。そこの赤毛の人は、大陸の端に住んでいる反帝国組織バイオ・ナンバーってとこの人だよ」


それから何度か言い合いの末に、黒装束の少女は納得したのか、握っていた剣――カトラスを腰に戻して、舌打ちをしながら小屋の中へと入って行った。


黒い羊も、構えていたサブマシンガンVz61『スコーピオ』を下ろして、不機嫌そうにその後に続いた。


それから銀白色のポニーテールをした少年は、キャスとマナ、そしてニコの前に慌てながら謝りにきた。


「ごめんなさい、ロミーが傷つけるようなことをしてしまって……。けして頭を下げて許されることじゃないですけど。ロミーとルーはその……繊細せんさいな性格なので……」


とても申し訳なさそうに頭を下げる少年の言葉を聞いて、キャスとマナ2人は思う。


……繊細だと?


いきなり落とし穴へ落ちた人間に対して、問答無用に乱射するような奴がか?


――キャス。


……わぁ~この子、髪の色も目の色も綺麗だなぁ~。


まるでお人形さんみたい。


――マナ。


「ボクの名はクロム――クロム・グラッドストーンっていいます。よかったら中へ入って。お詫びに食事でも振舞ふるまいますよ」


そうニッコリと言う少年はクロムと名乗った。


その笑顔を見たキャスとマナは思う。


……このクロムとかいう少年、どこかで会ったような感じがするな。


シックスやマナのときもそうだったが、初対面というにはずいぶん親しみを感じる。


――キャス。


……わぁ~笑顔も素敵!


いちいちカワイイ子だなぁ。


――マナ。


それからクロムは自分の歳を12才だと付け足す。


容姿を見るに、おそらく黒装束の少女も同じ年齢くらいだろう思われる。


クロムは警戒していたニコに手をだして、震えながら手を伸ばしたその手を優しく掴むと小屋の中へと引っ張っていった。


「2人も早く来てください。今日は丁度良いチーズがバザーで手に入ったんだ」


「えっ!? チーズだって!? キャス、急ごうよ!!」


マナはよだれを垂らしながらキャスに言うと、そのまま後を追って中へと入って行った。


……このまま入ってよいものか。


しかし、黒装束の少女とはともかく、あのクロムとかいう少年は信用できそうだ。


なんとなくだが……私の身体がそう言っている。


キャスは少しだけ考えてから、マナたちの後を追って小屋の中へと向かった。


小屋の中は、外よりも温度が高かった。


暖かいというよりも、むしろ熱すぎるくらいだった。


何故ならそこには、火炉かとがあったからだった。


火炉の側には、金床や木炭、そしてハンマーなども置いてある。


ここは鍛冶屋なのだと、キャスは本で見たことのある知識からそう思った。


クロムは、ここは作業場だから奥の部屋に来るように言った。


それから、小さいながらも、隅々まで掃除が行き届いた部屋へと案内された。


「さあ、座ってください」


木目の付いたテーブルの側にあった木のイスを引いて、キャスとマナへ言うクロム。


クロムの足には、もうすっかり懐いたのか、ニコがくっついている。


イスに座った2人に、クロムは改めて自己紹介を始めた。


銀白色のポニーテールをした少年、クロム・グラッドストーン――。


この小屋で鍛冶屋をいとなんでおり、側にあるガーベラドームへその品を売って生活をしていると言う。


大きめのチュニックに帯を締めた格好のクロムは、その話の後に思い出したかのように食事に準備を始めながら続けた。


黒装束の少女や黒い羊のことを――


彼女の髪を、毎朝シュリンプスタイルに束ねているのは自分であることや、使っている剣――カトラスのメンテナスは自分がやっていることなどを話す。


「あの黒い羊はルーっていうんだ。たまに悪さをするけど、良い子だよ。それとね、黒い服を着ている子はロミー。ちなみにロミーっていうのは愛称で、本名はローズ・テネシーグレ……」


「おい、クロム!! 人のことをベラベラ喋るな!!!」


さらに奥の部屋から、ロミーの怒鳴り声が聞こえた。


どうやら会話を聞いていたらしい。


ロミーは愛想なく続けた。


「それよりもお前たち。もう1人穴に落ちた奴がいたが、助けなくていいのか?」


それを聞いたキャスとマナは、少し間をおいてからイスから立ち上がった。


「ああ~完全に忘れていたッ!!!」


「わあ~あたしもだよぉ!! 早くアンを引き上げてあげないと!!!」


そんな2人の傍で、ニコも両手をあげて慌てている。


その頃、アンは――。


「遅い……遅すぎる。みんな無事なんだろうか?」


穴の中で1人、皆の心配をしていた。

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